カノシン心中小咄
2015-12-04(金)
全体公開
「僕らにはさ、こんな結末しかあり得なかったんだよ」
独特の倦怠感が、薄い布団や重なった洗濯物の貧困とした匂いと交わってとぐろを巻く。閉めそびれたカーテンの隙間とも言えない隙間から街頭の白や赤の光が差し込んできて眩しさに思わず目を瞑る。
「惨めすぎんだろ」
「だから、これ以外あり得なかったんだって。諦めるしかないの」
社会との関係を切って、息を薄めて、ただ自分と相手の欲だけを濃く深くして、この部屋の密度を高くして、そうして何処までも落ちていく。
「ねぇもう死んじゃおうよ。それ以外の道がないならさっさと行こうよ。どっちにしろ逃げてる事になるなら、早く終わらせようよ」
熱っぽい声が部屋に放たれる。幽かに反響した音を最後まで拾って、そこからまた十分息を詰めて、横に寝そべる男の瞳を見た。
赤の街路灯が、痛い。
「出かけんのダルいし、この部屋で済ませよう」
ぼそりと呟く。答えをはぐらかされたのでは無いと彼はしっかり理解したようで、今にも泣きそうにいつもの顔で笑うと、ゆっくりと唇を寄せる。
愛してる。愛してた。憎んでいる。恨んでいた。尊敬していた。頼っていた。嫌いだった。好きだった。彼や己自身だけでなく、他者への感情だって巻き込んで好きになっていた。それでもやっぱり嫌いだった。
もう何もかも自らの手で腐らせてしまったである。
如月伸太郎は目の前でもう自分との死以外考えられなくなってしまった愛しい恋人とどうやってまた逃げようかとドロドロの頭で思考を巡らせる。
楯山文乃という少女がいない今、彼らは何もかもから背を向けて逃げていた。
*
久々にガッとなってワッとなってザッてやった。カノシン心中話知ってる人いたらシェラまでお伝えください。(アヤノちゃんにガチガチに縛られてしまった弱い二人が大好きです。きっと二人とも、一人だったならもっと早くに死んでたし、二人の時よりもっと酷い感情のまま死んでいたから、必ずしもこの結果は悪いわけではないと思うのです。ただこの時の二人は立ち向かえなかっただけなのだと思うのです。)