嵐が丘
2018-07-09(月)
全体公開
E.ブロンテの「嵐が丘」といえば、世界三大小説として名高い有名な作品
(とはいえ、世界三大〇〇なんて日本人しか言ってないと思うのだけど)
あらすじを一言で言うと「ある凶悪な男の純粋な愛が呼んだ悲劇」という感じ。
物語は、語り部のロックウッドが、元嵐が丘邸の使用人ネリーからのまた聞きで語るという特殊な形で展開される。
また聞きなものだから、情報は正確性を欠くし、あることもないことも語りに含まれている。
「叙述トリック」という言葉を聞いたことがある人は多いと思うけれど、これはその典型的な例。
とにかく、この小説の登場人物たちは、他の小説や物語のキャラクターに比べても強烈と言っていいほどに一貫した倫理性を持っている。
倫理性っていうのは、つまり「価値観」ってこと。
全員が個人的な「目的」を抱えていて、その「目的」めがけて好き勝手に動く。
ヒトのメーワクを考えようだとか、時と場所をわきまえようだとか、そんな気遣いは一切ない。
とくに、この物語の中核であるヒースクリフなんかは、徹頭徹尾「破壊者」である。
平和な嵐が丘に転がり込んできて、家族の絆をズタボロにし、失恋したら、今度は恋人を奪った他家の家までめちゃくちゃにし、人から嫌われても疎まれてもまったく気にも留めない。
だが、ここが面白いのだけれど、この作品の登場人物たちは、強い倫理性を持つが故にパラドックスを常に抱えている。
自分は○○な人間だから、こうするべきだとは思うのだけど、しかしそれをすると自分は〇〇な人間ではなくなってしまう。
そういった葛藤が目の前に霧のように立ち込めているわけ。
そして、その感情の機微は物語とは関係ない線でつながっている。
古典小説なので、それなりに厚さのある小説だし、
登場人物の魅力が出てくるのもどうしても後半の方になってしまうのだけど
夏のベタつく夜を共に過ごす小説としてはこれ以上のものはないぐらい面白い小説なんで
まだ読んでない人は是非読んでほしい。
小説に興味がない、文字読むの苦手、という人にはまだ早いと思うので
そういう方はアゴタ・クリストフの「悪童日記」あたりをオススメしたい。