いなくなれ群青
2018-07-08(日)
全体公開
今日のブックレビューは河野裕さんの「いなくなれ群青」
階段島シリーズと言えばそのスジでは有名。
ちょっと前にアニメ化されたサクラダリセットと同じ著者さんの作品です。
あらすじがちょっと説明しづらいのだけど、「階段島」という離島で暮らす主人公が、無為だけど平和な日々を甘受しているところに、幼馴染の女の子が突然現れて、生活が急変していく。……っていう感じ。これ以上喋るとネタバレなので言えない。
この作品というか、河野さんの特徴は、エンタメ小説、ライトノベル寄りの内容でありながら、文体が純文学寄りということ。
この人だけ昔のライトノベルのノリをそのまま保持しているっていう感じ、と言い直した方が伝わるかしら。
いい意味で、高校の文芸部学生の作品を読んでいる気分というか、等身大の日本語で、読んでいて難しいことは何もなく、だけど新鮮な視点を僕らにくれるということ。
その、一種『典型的』な語りを通して、外の世界と交流を持つことのできない不思議な空間「階段島」の、異常な日常の事件が語られるという層的なでき方が、このシリーズの最大の、そして唯一の見どころと言っていいと思う。
唯一の、って言ったのは、それしかないから取るに足らないってことじゃなく、それしかないから凄いってニュアンス。
小説っていうのはなんでもかんでも重ねていけばいいってものじゃなくて、どこをどうそぎ落としたらより面白くなるかっていうことも考えなきゃいけなくて、これは一種その極地にある作品だと思う。
エンタメの要項も満たしつつ、純文学としての命題も(保坂和志さんあたりのテーマなので少し古いかもしれないけど)ちゃんと混ぜ込んであって、それを違和感なく統合するっていうのは、まさに職人技という感じ。
一度読んだらすぐツルッと無くなってしまうような淡いお話だから、もう読んだ人は読み返そうとか思わないかも知れないけれど、もうここまでくると一種の技術書としても読めるので、是非もう一度ページをめくってみてほしい。
まだ読んだことがない人で、「青春!」ってカンジの小説読みたい人がいたら、是非読んでみてください。シリーズも完結済なので、もしかしたら古本屋さんで安く買えるかも。