もりのくまさん
2016-12-31(土)
全体公開
しばらくお絵描きできないので、もりのくまさんについて考えてみた。
ある日、森の中、くまさんAに出会った。
花咲く森の道、くまさんBに出会った。
くまさんBから目をそらさず、くまさんAは言った。
「お嬢さん、お逃げなさい」
「え、でも…」
「お逃げなさい」
優しくも強い口調で、くまさんAは同じ言葉を繰り返す。
意を決して、お嬢さんは走り出した。美しい過去を振り切るように、スタコラサッサと一心に逃げ出した。
数分か、あるいは数時間かもしれない。走り続けたお嬢さんの耳に、自分のものではない足音が聞こえた。
トコトコと、くまさんAがいつの間にか後からついてくるではないか。
お嬢さんは立ち止まって振り向いた。
追い付いたくまさんAが、いつものように優しい声で言う。
「お嬢さん、落とし物ですよ」
お嬢さんは言葉もなく、くまさんAを見上げた。くまさんAは、鮮血に染まった顔のまま微笑んでいる。
その手には、白い貝殻の小さなイヤリングがあった。
「くまさん、ありがとう」
お嬢さんが差し出されたイヤリングを受け取ると、くまさんAは安心したように息をつき、地面に膝をついた。
もう動かないくまさんAの背中に、お嬢さんの涙が落ちた。
やがて立ち上がったお嬢さんが、清らかに息を吸う。
お嬢さんは歌った。くまさんAへのお礼の歌を、声が嗄れるまで歌い続けた。
うん。まあいいや。
それでは皆さん、よいお年を。