―――僕は、彼女を助けたい。
彼女の家族にはなれなくても、悲しみを分かち合うことのできる人になりたい。
たとえ悲しみが分かち合えなくても、傍にいると彼女の心が安らぐ人になりたい。
そんなこと無理だとしても、僕は彼女を笑顔にさせたい。
誰もが「無理だ」というけれど、それほど彼女の心は鎖に絞められているけれど、僕はそれを、解くことのできる人になりたい。
なんて、始まりだった。
「難しそうだなぁ」
普段は本なんて読まないし、読むとしても文字の少ない漫画ばかりだから、この手のものは少しばかり辛かった。
けれど、
「彼女を笑顔にさせたい、ね……」
そこにはちょっとばかし同意できた。
オレは、青峰を笑顔にさせたい。
オレに心を許してくれたら、オレはそれが本当か疑ってしまうだろう。
それほどに、彼女の心は解し難いから。
そんなことを考えていると、この「僕」が助けたがっている「彼女」は、青峰に似ているな、と思った。
まあ、読み進めていくとしよう。
彼女は、周りに高嶺の花といわれている。
そんな彼女の存在を知ったのは、僕が15歳で、彼女が13歳の時だ。
中学校が一緒になった。
入学式の日に、クラスで、「一年生に凄く美人な子がいる」と聞かされ、覗きに行くのに付き合わされたのだ。
確かに、綺麗だった。
繊細そうで、少しでも触れたら、こわれてしまいそうなほど。
これは僕が一方的に彼女の存在を認識しただけで、彼女が僕を知ったのは、もう少し後のことだ。
図書委員会に入っていた僕は、やはりこの年も図書委員に入った。
見慣れたドアを開く。そこにいたのは、その彼女だった。
高根の花。が、一人くらい部屋に佇んでいたのだ。
「わっ」
流石に驚いて、声をあげてしまう。
「……こんにちは」
「あっ、うん、こんにちは」
向こうからあいさつされたことで、二度びっくりした。
そして彼女は椅子から立ち上がり、トコトコと僕に寄る。
「…………1-2図書委員、高峰ユーリ、です」
お辞儀して、か細い声でそういう。
僕はしばらく唖然としてしまった。
その様子を不思議におもったのか、高峰さんは首をかしげる。
「……っあ、うん、よろしく。でも多分、あとで自己紹介すると思うから、今一人ひとりに言う必要はないと思うから」
高峰さんは、こくりと頷いた。
こんなに読んだのにまだ半分も行ってないのか……!?
嘘だろ、と声を上げる。
先が長そうだ。
「あっ、いた〜!」
教室に入ってきたのは、同じクラスの三芳だ。
「げっ、それ、ほんとに読んでるの?」
オレが持っていた本を見て言う。
「ん、ああ」
「……ねえ、青峰さんのこと、本気なの?」
「本気だから読んでるんだろ。」
三芳は眉間にしわを寄せてから、口をとがらせる。
「なんで私じゃダメなの?」
え?
「私だってずっと、好きだったのに」
―――がたんっ
机に何かがぶつかる音がした。三芳が話を遮断されて不愉快そうな顔になる。
後ろを振り向くと、そこには、
無表情のビスクドールが、立っていた。
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