―――私は悴に、ついて行く。


 暗示にいら立ちながら、私は理性を保つ。乗っ取られたら、終わりだと分かっているから。
 「悴、時間だ。諦めろ。」
 洸でも、神鳥 悴のでもない声が聞こえた。
 「ちっ……わぁったよ。行くぞ、白龍」
 白龍と呼ばれた男は、こちらに一瞥し、悴と共に去っていく。
 その瞬間、私に掛けられた暗示は解けた。
 怖い、なんて言う事は出来ない。
 (嫌われちゃうもんね……)

 洸は、弱い人が嫌いだから。

 だから私は、自分で自分を守れることを証明するために、アヤカシ狩りに就いたんだもの。



 コンコン
 「おい、まだ起きてるか?」
 「あ、うん、洸!?」
 部屋のふすまが開き、武の顔がのぞいた。
 「あははっ、似てた〜?」
 「……地獄に落ちちゃえ」
 本気と書いて、マジで。
 「結界は前より強めに張っておいたからしばらくは大丈夫だと思うよ。アヤカシたちが強くなってなければね」
 まあ、そう都合よくパワーアップするはずあるまい。
 「それにしても、今日のアヤカシの数、半端じゃなかったね。」
 「……うん、そうだね」
 「全国各地から来たのかな、雪玉とかいたし。」
 「……うん、そうだね」
 「それじゃ、また明日ね」
 「……うん、じゃあ、おやすみ」
 武は苦笑しながら部屋を出て行った。


 コンコン
 「おい、起きてっか?」
 また武……?
 「もう、今度は何!たけ……」
 私は勢いよくふすまを開けた。のはいいんだが、目の前にあった顔に絶句した。
 「竹?」
 洸ではないか。洸が目の前にいるじゃん。え、何で?
 「えっ…と、洸?どうしたの?」
 「どうしたの?じゃねえ。結界張ったからって安心ってわけじゃないだろ。」
 「……まさか、見張る気?」
 「ああ。」
 A・RI・E・NA・I!!
 ありえないありえない、何この神シチュ!?どうしよう!?え!?
 「ってか別に見張んなくても、私強いし、平気だよ?」
 我に返った。弱いと思われてるから、見張りに来るんじゃないか?
 弱いと思われたら、嫌われてしまう。
 洸に嫌われる。それは私にとって一番の恐怖だった。
 アヤカシに食われることよりも、恐ろしい。
 「女が何言ってんだ」
 溜め息をついて、洸が言う。」
 「私は強いの!」
 「んなわけあるかっての」
 「強いよ、強い。きっと幹部の人たちにだって勝てる!」
 「馬鹿じゃねえの」
 「強いんだよ、だから」

 「洸が守ってくれなくたって、平気なんだよ……!!」







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