「あはは、隊長、掃除屋の周りに馬鹿みたいに集まってんですよ?出来てるに決まってるじゃないっスかぁ」
 「隊長の大事な姫さん食おうとしてくれたんだ。そりゃ、それなりにあんだろ。」
 「ねーねー、早くやろうよ市之瀬くーん」
 「誰か姫っつったか?あのちんちくりんを」
 ……なんか今、ものすごく聞き捨てならないキーワードがあった気がするんですけど。
 え?洸君?ちんちくりん云いましたか?
 「佐倉さん、門の中へ……」
 「あ、うん、はい。」
 門の中に入ればとりあえず安心できる。
 私は集会所に向かい走った。。
 
 門をくぐると、結界内に入る感覚がした。
 (これで、安心、か……)  それにしても、本当になんで私が……。

 「あ、姫さん、ちゃんと居た。」
 「今度は逃げなかったんスね〜」
 皆が帰ってきた。
 「おい、郁。怪我とかないか?」
 「え、あ、大丈夫。……心配してくれたんだ?」
 私がにやりと笑うと、洸は平然として
 「心配?誰をだ?ああ、ちんちくりん?」
 ……思いだした。こいつさっき、私の事をちんちくりんって呼んだんだった!
 「あんたね、ちんちくりんって何よふざけんな!!!」
 「お前だって蹴ってきただろ。おあいこだ。」
 「っていうか私がちんちくりんってことは、鳴神さんが言った『姫』は私ってこと分かってたんだ?」
 さらに私は頬をゆるめた。
 どうだ、負けろ洸!
 「っていうかお前は自分を姫だと思い込んでるんだ?」
 「あがッ」
 ……ひどい、鬼だ、悪魔だ。。。
 洸は知らん顔してスタスタと歩いて行く。
 「仲良しだねえ。郁ちゃん?」
 「あ、南野さん」
 南野 武。幹部の一人で、なれなれしいというか、スキンシップがあるというか、……まあ、フレンドリーな人。
 「あはは、市之瀬く……あ、隊長みたいに名前で呼んでよ〜」
 洸とは古い友人らしいが知らなかった。立場上あまり名前で呼んではならないのか、『市之瀬くん』といいかけたのに、役職名で呼び直した。
 「うん、分かった。武、ね」
 洸以外の男の人の名前を呼び捨てで呼ぶのは初めてかもしれない。
 洸は親ぐるみで仲が良かったし、っていうのもあるんだろうけど……
 「あ、そうだ郁、隊長の秘密、教えてあげようか?」
 「え!?」
   武は、いたずらっ子のような笑顔でそう言った。

 *                               *
 慎重に、小さなもの音もたてないように私は歩いた。
 今は真夜中丑三つ時。洸もきっと、寝ているはずだ。
 「おい」
 びくっ!!
 今の声は、洸……!!
 「なにやってんだ?」
 「いや、いや、なんでも―――」

 空気が、変わった。

 「結界が―――!?」
 破れた、の?
 今までのような安心感がなくなる。
 「くそっ、郁、俺から離れんなよ!」
 「い、イエッサー!」

 予想通り、アヤカシは私の周りに集まる。
 「日笠!」
 洸がそう呼ぶと、黒い服を身にまとった忍びのような人が現れ、他の幹部の部屋に駆けだす。
 丑三つ時だし、皆寝てるよね。
   ―――あれ?じゃあなんで洸は起きて……

 ゾクッ

 寒気がして、私は考えるのをやめた。
 (何!?)
 私の背後から、視線を感じた。
 振り向いてみると、橙色の髪をした男の人が立っている。
 「……だ……れ……?」
 嫌な予感がした。
 (洸……洸!?)
 洸を探してあたりを見回すも、その姿はどこにもなかった。
 (どうして……!?)
 「俺は神鳥 悴だ。お前を迎えに来た」
 ……なん、だろう。彼を見てると、頭がくらくらして……
 暗示だ。
 私はいそいで瞳をそらそうとする。が、すでに暗示にかかってしまっていた。
 「郁!?」
 洸の声が聞こえた。……焦ってる?洸らしくないな。……でも今はそんなこと、どうでもよかった。

 ―――私は悴に、ついて行く。






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