とかいうことで、私は今、妖討組の集会所にお世話になっている。
 あの衝撃発言(?)から一時間。私は妖討組の幹部の集まりに呼ばれた。
 「お、佐倉の子じゃねぇか」
 「久しぶりです、龍頭」
 龍頭 友仁。祖父の代から「うち」がお世話になっている人で、妖討隊の監督だ。古いころからの付き合いなので、呼び捨てにしてしまっている。
 「さて、始めんぞ」
 洸の低い声がその場を変えた。和やかだったものが、張り詰めたような空気になる。
 そして洸は私を見て言う。
 「おい、郁。お前、狙われる心当たりはあるか?」
 私は首を横に振る。アヤカシ狩りをしている以上、アヤカシ達に恨まれるのは仕方のないことだけれど、それは洸たちだって、他の人たちだって同じのはず。怒りの矛先が私一人に向く理由なんて、分からなかった。
 「そうか……」
 「というか、どうして洸たちは私が狙われてるって分かったの?」
 洸は「ああ」とうなずき、
 「少し前に狩ったアヤカシが、消える直前に言ったんだ。佐倉の子を喰らう≠チてな。後に、そんなこと言うアヤカシがふえたから、こりゃやばいとおもってな」
 私を、喰らう……?
 てことは、私はもしかしたら、もし、さっき洸たちが来てくれてなかったら……
 ……アヤカシ達に囲まれて、食べられていたかもしれないってこと……?
 考えただけで、背筋が凍った。
 「洸……?」
 私は、縋るようにして洸の名前を呼んだ。
 洸はそんな私の心の中がわかったように、
 「大丈夫だ、俺たちが守るさ。郁に死なれたらおっさんになんて言っていいかわかんねえしな。」
 そう、優しく言ってくれた。
 「組長心配症ですもんねー?」「アヤカシが云った時、血相変えて郁さん探しに行こうとしましたもんねー?」「結局組長ってゾッコンですよねー(笑)」
 周りからのヤジが洸に飛んでくる。みんな半笑いだ。
 なんだか私も面白くなって洸に訊いてみる。
 「ねえ、洸、心配してくれたの??」
 「―――ッちげえよ!!ただお前に死なれたらおっさんにも飛水のババアにも悪いと思って……」
 「組長、真っ赤ですよー?(笑)」「ほら組長、素直にならないと(笑)(笑)」
 「だーっ、うっせえ!俺は郁の事なんてどうもおもってねえんだよ!!!」
 
 「……」

 てれ隠しとは言え洸がそう言ったことに、なんだか私は少しムカッとして
 げしっ
 「!?」
 「あ」
 「「「えっ」」」
 洸を、蹴ってしまった。
 どうしよう、このままだと洸にひねりつぶされる。ええっと、ええっと、なんて言うんだっけ。
 ―――逃げるが勝ち、だ!
 言葉通り私は外に逃げ出した。
 「―――おいッ、今結界の外に出たら……!!!」
 洸が何か言っている。しかしもう遅かった。

   私は既に、門の外に出ていて、
 結界とは、それはもう無縁な場所にいて
 アヤカシが、目の前にたくさんいて、

 「―――ッ!!」

 私は急いで刀を抜いた。
 けれど……
 (無理、だ……)
 一人でこの量のアヤカシを片づけるなんて、私には絶対不可能だった。
 (そうだ、結界!門の中に入れば……)
 しかし、こんな大勢の前で背を向けられるか。
 ―――否。

 「クケケケケケケケッ、サクラノコ、クウ……!!」

 人間とは似ても似つかない、声のような何かをアヤカシは発した。
 佐倉の子を、食う……!
 足が震えて力の入らない私に、アヤカシ達は襲いかかってくる―――。

 「おめーら覚悟は出来てんだよな?」

 洸……!!!

 もう何も分からなくなりかけた私の頭に届いたのは、確かに洸の声だった。




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