F〜始まりのコード〜 サンプル



桜の花が舞い散る、というより散り終わった頃。
春の暖かさが過ぎ去り、日々少しずつ夏の暑さが近づいてくる。
…高校最後の夏が、やってくるのかぁ。
そう思いながら窓の外を眺めてぼんやりしてると、突然机に衝撃が走る。
振り向くと、そこには赤毛の狼獣人がニコニコしながらこっちを見ていた。
「なぁ転校生、お前吹部だったよな?」
転校生。そう、うん。転校生。転校してきたの年度末なんだけどな?そろそろその呼び方やめて欲しいです。名前で呼べ名前で。
まぁ、そう言いつつ自分もこいつの名前覚えてないんだけど。
「そうだけど、それがどうかしたの?あとその呼び方やめて」
「パートは?」
なんだこいつ。そんなこと聞いてどうすんだ。
「打楽器…」
「よっしゃ!」
答えるや否やガッツポーズで喜び出す。なんなんだ、よくわからん。
それより次移動教室だったしそろそろ準備しなきゃな…
こいつはほっといて次の教室に向かおう。
と、立ち上がって歩き出した途端、
「おい転校生!」
呼び止められた。
「なに?あとその呼び方やめ「バンドやろうぜ!!」
…………は?
「えーと、今なんて?」
「俺と一緒にバンドやろうぜ!」
「何言ってんの?」
「だーかーらー!一緒にバンド!やろうって!ドラムだけがどうしても見つかんなくてさー頼むよ!な!」
「嫌」
「頼む!」
「拒否」
「この通り!」
「断る」
「お願いします!!」
「土下座しても無理」
なんでここまで全力なんだ、こいつは。
「な〜頼むよ〜」
泣きながら足にまとわりついてくる。
そこまでして私にこだわる理由なんてないだろうに。
「悪いけど、本当に無理だから!ドラムなんてそこまで得意じゃないし、他の子に頼んで」
「……って」
「は?」
「みんな…ダメって…断られて…もう…頼めんの…お前だけなんだよ転校生…」
はーなるほど。そういえば部活の時にめちゃくちゃこいつにお願いされたって話してる奴いたな。これか。
ていうか…
「とりあえず顔上げてよ…みんな見てるし…あと次移動教室…」
そう言いかけた途端予鈴がなる。やばい。
次の先生めちゃくちゃ怖い先生だ。
「ちょっと、起きて!次オニセンだから!早く!」
未だ足にしがみついてるそいつを無理やり引き剥がし起き上がらせると、自分の教材を抱えて教室を飛び出した。

(○Live.1より)

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