シニカルナイト・ダークネス show,01
「おっはよ!」
「……ん?」
「央佳君だよね?」
夏の日差しがじりじりと照りつける、初めての通学路、の下り坂の終わり。
俺は見知らぬ少女に声をかけられた。
っていうかここに知っている同年代の人間など居ない。
俺はつい先日この地に引っ越してきたばかりの転入生で、今日が初めての登校日で、そしてまだご近所にあいさつすら済ませていないのだ。
そんな俺が、どこをどう間違えばこんなシチュエーションを体験できるのだろう?
いや、常識的に考えてそんなのは無理だ。
ってか最初の一言は完璧に確定的に明らかによくある幼馴染パターンだったよな?初対面でフレンドリーすぎないか?
俺はぶっちゃけ本をまめに読むような人間じゃないが、人並み以上な変な体験をしてきた自負はある。
それでもこんな突飛な出来事は俺の人生の備蓄パターンボキャブラには存在しない。
「……誰?」
とまぁ、普通に普通の人らしい普通の言葉を返すしかない。なんか情けない気がするのは気のせいだと思う。
目の前の、つむじ風の如く突如出現した電波少女は、そんな俺の返答を受け、「えへっ」と満足そうな笑みを花開かせた。
「あたし、君とクラスが一緒になる織部 涼香っていうんだ!よろしくっ!」
うんうん、同じクラスかぁ、そうかそうか。
待て、もう一回その言葉プレイバック、パードゥン?同じクラス?
いや、まぁそれは確かにそう言われればそうでも可笑しくない。同い年っぽいし、私服だし。
だからってまず待て、何の確証があって俺が転校生であること、同じクラスであることを知っている?
なんだこの展開?
「…………何で俺が転校生って知ってんの?」
「へへ、実はアタシの親父が先生やってるから、先生同士のコネクションで飛んできたんだー。」
「……何で同じクラスって知ってんの?」
「だから先生同士のコネだってばぁ、馬鹿なの?」
初対面の女性に罵倒されたのは生まれて初めてだぞ。真面目に。
さて、読者の方々にはいきなり始まっていきなりやってる自由奔放なストーリーを展開して申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが、正直言って現在こんな状況であるゆえに、今回は大仰な前フリは省略させて頂きたい。
新しい始まりかたのジャンルということで目をつぶってほしい。
幸いにも、俺は不思議体験をした時に絶対に言うセリフというものの用意ができている。
それは以下のような、たった四文字に疑問系のイントネーションをつけるだけのセリフだ。
「ユーレイ?」
「……え?……何?君面白いこと言うね!」
「いや、今の結構真面目な質問だったんだが……。」
笑えない冗談だと思われた。
まぁ、確かにハタから見りゃあ俄かオカルトかぶれのキチガイ発言でしかない、このリアクションは一応想定内だ。
まぁ幽霊な訳もないか、足もあるし、なによりこんな薄着で血色のいい少女が霊的なものである可能性は極めて薄いだろう。
「えと……織部さんだっけ?……手荒い歓迎ありがとう。この地域ではこういう出迎え方がポピュラーなのか?」
「堅いなぁ、涼香でいいよぉ(笑)」
初対面の女子を呼び捨てできる思春期男子がいたら俺は100円を進呈する。ってか皮肉はスルーかよ。
「ほら、油売ってないで早く学校いこ?」
「あ?……あ、あぁ。」
……何だこの不思議なムードは。
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