ついてきて、と言われて、俺が連れ出されたのは駅前の裏通りだった。時刻は日付を跨ぎ午前零時十分。

このあたりは駅まわりの中でも特に雑然とした区画で、ゲームセンターやパチンコ店、いかがわしいスナックやバー、風俗店が軒を連ね、普段ならばこの時間活気にあふれている。

しかし、連れてこられてみると、今日は驚くほどに人の気配がなかった。
電気はついているのに、音が一つもしない。酒屋のキャッチも一人として出ておらず、営業中の看板は出ていても店の中には誰もいなかった。

それだけではない。さっきまで聞こえていた、駅の構内アナウンスの声も一切聞こえなくなっている。唯一聞こえてくるのは、街灯がジリジリとプラズマをやりとりする不安げな音だけだ。

「今日はここに来ると思うから」

そう言うと、香園は少し肩をすぼめた。

「ねえ、瑞金くん。君に説明するために必要なことだから見せるけど。お願いがあるの」
「なんだ」

「絶対にこのことを人に言わないで。人に漏らさないで。私が生きているってことも、絶対に秘密」

「どうして」

「どうしてと来たか」

香園はこめかみのあたりをぽりぽりと掻きながらう~んと唸り声をあげた。

「そうだな、瑞金くんと、ずっと友達でいたいから。ってことじゃ……だめかな?」
「……どういうことだかさっぱりだが、わかったよ。そういうことにしとけばいいんだろ」
「ありがと」

俺が思わずニヤッと笑うと、香園も安心したように笑った。


その瞬間だった。
上空からバリバリという音が聞こえてきて、何事かと見上げたら暗幕の空に卵の殻を叩いたような巨大なヒビが入っていた。次第に夜の天井が崩れ落ちてきて、そこから不定形のドロドロとした「何か」がこちら側へ落ち込んでくる。

「は、はおぁ!? なんだありゃあ?」
「私もよく知らないけど、とりあえず、敵!」

それはぶよぶよとした、液体とも個体ともつかない不思議な動きをする怪物だった。
スライムというと可愛らしく思えてくるかもしれないが、あんな透明感のある色はしていない。
黒いねばねばとした筋繊維の塊に、いくつか爪が生えて、自在に動いて周囲のビルを破壊している。


香園は、その化け物に向かって突っ込んでいく。

「あ、お、おい!香園!」

呼び止めても、香園が足を止める気配はなかった。

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スカート&スカー 傷跡編 s.1
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