そこからは、説明のしようがない。
というのも、どう説明していいのか、俺が困っているからだ。

どこぞのロボットアニメと特撮ヒーローものを足して2で割ったみたいな現象だったから、現実感もへったくれもない。

そもそもあんな形容しがたい粘液性動物がいることも初めて知ったし、そのねちょねちょの化け物と戦いだした香園ときたら、一度不覚をとって体をめちゃくちゃに引き裂かれたというのに、すぐに再生してまた戦いに戻っていく始末だった。

打撃を加えても吸収するその黒光りする粘体動物に、殴打や刃物は効果が望みにくいと判断したのか、香園はさらに人外度の増した手段をとった。

香園がにわかに拳を握りこんだ。小さくグッとガッツポーズしたような風情だ。しかし、次第にその腕が真っ赤に変色し、見る間にその色が白く、そして眩い光を放ち始めるようになる。

彼女がその腕を振るうと、シュウシュウという耳慣れない音が鳴った。空気中の埃がプラズマに蒸発しているのだと思う。詳しく調べたわけでもないから多分だけど。

つまりそれは、燃える鉄拳。
その拳が叩きこまれるたびに、黒い粘体動物は焼けただれ、焦げ落ち、蒸発し、その大きさを失っていく。
そして次第に動かなくなって、熱された。

目の前にあるのは紛れもなくマンガの世界だった。

全てが終わっても、香園はずっと化け物の死体を延々と弄び、引きちぎり、焼いていた。そして最後に全てを残らず食べてしまうと、その顔ににったりとした笑みを浮かべた。
本当に笑ったのかは定かではない。しかし俺には、そう見えた。

俺にはただ、その姿を見ていることしかできなかった。

残されたのは、ボロボロの街と、化け物に引きちぎられた服のままの、あられもない香園と、立ち尽くす俺。

死体は欠片も残っていない。


香園はしばらく、割れた空を見上げたまま佇んでいた。
そんな彼女の背中を眺めながら、俺にはやはり、何もできることはなかった。

次へ

スカート&スカー 傷跡編 s.2
やめる