月は、雲の下に隠されていた。
 その隙間から、ちらちらと星が瞬き始めている。

 吊り橋の下に潜むケモノは、静かに、静かに、獲物であるわたしたちが来るのを待っている。
 そう、みんな思っていた。

 表情は硬いながらも、長女は、なるべく明るく声を出す。

「大丈夫、絶対いけるよ!お母さんのためなら、全然恐くはないんだからね!」

 そういいつつ、全員が、心の中では、誰かを生贄にしてしまえばどうか、と考えていた。

 そして次女が、それを口にしてしまう。

「……優しいと残酷って、一緒にいられんの?」

 その言葉の意味を、その場にいる者たちは、誰もがわかっていた。





 吊り橋は細く狭く、全員一気にわたるのは難しい。
 必然的に、一人ずつしか渡れない。
 
 話し合いの末、幼い順に渡ることになった。

「いい?お姉ちゃんが食べられちゃったり、落ちちゃったりしても、気にせず行くのよ」

 末っ子は頷き、橋を渡りはじめた。

 

 もう、少し。


 希望の光が見えてきたところで。


 黒い黒い、影がその邪魔をした。



 震えが止まらない。
 
 ケモノだと、末っ子は直感的に思った。

「お、ねがい……たすけて……」

『震えて命乞いなんてしたって無駄ダモノ』

 ケモノは、末っ子に向かって叫んだ。

 末っ子は、悩みに悩んだ末、こう言った。

「つ、次にわたってくる子は、私よりずっと美味しいですよ!わ、私よりずっと可愛いし、どうぞ代わりにしてくれませんか……?」

 ケモノは悩み、

『そいつが来るのを待ってみよう。お前の代わり、が』

 ケモノは末っ子を喰らうことはなく、末っ子は無事に橋を渡り終えた。











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3人の可愛い姉妹と、吊り橋の下に潜むモノ【若干閲覧注意】 s.1
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