無題
2007-08-23(木)
全体公開
教員グループによる回答一覧
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A.宇宙の始まり・ビックバン
質問A-1. ビックバン前の宇宙はどのような宇宙でしょうか。
質問A-2. 宇宙年齢137億年以前は「無」だったのでしょうか?
質問A-3. なぜビックバンが起こったのでしょうか、無から何故宇宙ができたのでしょうか。ビックバンを起こしたエネルギーはどこから発生したのでしょうか。
質問A-4. ビックバン直後の宇宙はどのような宇宙でしょうか。
質問A-5. 宇宙はどのようにできたのでしょうか?
質問A-6. ビックバンとは何でしょうか。どのようにしてビックバンから星ができるのでしょうか。
質問A-7. 時間がビックバンと共に始まったのなら広がり続ける限り時を刻んでいると考えると、もし縮みだしたりしたら時の流れは今よりゆっくりなるのでしょうか。
質問A-9. 反粒子は今現在どこにあると考えられているのですか?
質問A-10. 虚数空間・時間とはどういうことか、どういう状態なのでしょうか。
質問A-11. 宇宙は将来どうなるのでしょうか。
質問A-12. ビッグバンのエネルギー源はなんですか。
質問A-13. ビッグバンは繰り返すのでしょうか。
質問A-14. またいつか同じように宇宙の始まりはありうるのでしょうか。
質問A-15. ビッグバンによって宇宙が生まれたという証拠はなんですか。
質問A-16. インフレーション理論では誕生直後の宇宙が10〜34秒で10〜100倍も膨張したと教えられました。
一方、光速は1秒約30万キロメートルと伺っております。「光速より早いものはない」と思い込んでおりましたが、どう考えればよいでしょうか?
質問A-18. 今宇宙はものすごい勢いで拡大中とききますが、そのエネルギーはビッグバンで生じたエネルギーでしょうか、それとも各銀河系内の恒星の誕生から死までに発生するエネルギーでしょうか、又その速度はどのくらいですか。
質問A-19. 私たちは宇宙といえば、球形を想像するのですが、それ以外の形、例えば板状のものが湾曲したいたり、
ドーナツ状であったりとかの可能性は、理論上または、痕跡が発見されたことはないのでしょうか。
質問A-20. 現在考えられている宇宙の大きさ130数億光年(直径ではその2倍)になったのはいつ頃ですか。
質問A-21. 誕生後の宇宙の大きさ、温度、膨張速度について時間経過を追っての変化をどのように考えているのでしょうか。
質問A-22. 宇宙はどこ(座標)で誕生したのでしょうか?
質問A-23. 宇宙が誕生したときは12次元あったのでしょうか?
B.宇宙の果て・膨張宇宙
C.ブラックホール
D.物理・天文
質問D-3. 宇宙はどうして無重力なのでしょうか。酸素(空気)がないのでしょうか。
質問D-23. 宇宙から電波がとどいているそうですが、どこからでているのか、どうしてでているのでしょうか。
E.銀河・銀河団・ダークマター
質問E-3. 渦巻き銀河の起源について教えて下さい。
質問E-8. 天の川は何で出来ているのでしょうか。
F.太陽・恒星
質問F-1. 宇宙にはどれだけの星があるのでしょうか。
質問F-3. 太陽の核融合反応で出来る一番重たい物質は鉄だそうですが、 地球上には鉄より重たい物質があります。それはどの様にして出来たのですか?
質問F-4. 太陽はなぜあんなに大きいのでしょうか?
質問F-19. 星が発見された時にその質量を太陽何個分と表現しますが、なぜそれが分かるのでしょう?
質問F-24. 恒星の寿命はどれくらいでしょうか。
G.惑星・衛星
H.宇宙開発
I.宇宙人
質問I-2. ウルトラマンはいますか?
J.その他
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A.宇宙の始まり・ビックバン
質問A-1. ビックバン前の宇宙はどのような宇宙でしょうか。
答.宇宙の始まり、時刻0より前は、現代の宇宙論では分かっていません。 一般相対性理論に基づく宇宙論では、時刻0は、空間の曲がりが無限大になって破綻する特異点と呼ばれるものになってしまいます。これはちょうどブラックホールの中心と同じです。このことは、1960年代終わりにイギリスの二人の数理物理学者、ペンローズとホーキングによって示されました。数学的には一般相対論が破綻しているので、それより前を追うことが出来ないのです。そこで多くの研究者は、一般相対論を越えた理論が必要だと考え、それを探しています。おそらくその理論とは、偶然が支配するミクロの学問である量子論を一般相対論に組み込んだものだと思われています。その試みの一つとして、素粒子物理学者は超紐(超弦)理論と呼ばれるものを考えています。これは時間空間が4次元ではなく、10次元ではじまり、そこに存在していた弦の振動が粒子を生み出したというような理論ですが、これもまだ完全に完成はしていないのが現状です。10次元の世界がどのように4次元の宇宙に転じたのか、まだわからないことだらけです。また10次元の時間空間はじつは11次元の時間空間の一断面を見ているのではないかという考えも提案されています。宇宙は11次元の時間空間として生まれたのかもしれません。
最近では、宇宙の3次元空間は、さらに高い次元の空間の中に浮かんでいる膜であるという考えも出されています。この考えをさらに推し進めて、宇宙の始まりの新しいアイデアを提出している研究者もいます。私たちの宇宙である膜が、他の膜(つまり他の宇宙)と衝突するのが宇宙の始まりだというのです。ただし、このアイデアはまだ多くの研究者の賛同を得るには至っていません。
一方、この問いにあるビッグバンを、熱い宇宙の始まりだとすると、その答えは、インフレーションと呼ばれる宇宙の大膨張ということになります。宇宙誕生から10-35秒の頃に起きたインフレーションによって、空間は30桁以上も引き伸ばされました。この膨張は、わずか10-33秒ほどで終了し、膨張を引き起こしたエネルギーが熱に変わり、ビッグバンが起きたのです。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-2. 宇宙年齢137億年以前は「無」だったのでしょうか?
答.A-1の質問の答えにあるように、時刻0の瞬間、及びそれ以前のことはまだよくわかっていません。
ただ、多くの研究者は、確率が支配する量子論と宇宙の始まりが密接に関連しているだろう考えています。量子論によると、何も存在していないように見える真空でも、ごくわずかな時間の間には粒子と反粒子が絶えず生まれては消えるということが起きています。宇宙も、何も無いところから偶然によって生まれたのかもしれません。
この他の可能性としては、かつて存在していた宇宙が収縮して、特異点に達する前に再び膨張に転ずるという周期宇宙論も考えられます。しかし、この考えだと、いったん宇宙に出来てしまったブラックホールが消えることはないために、周期を繰り返す間にどんどんと増えていってしまうという難点があります。また、現在の宇宙の詳細な観測からは、どうも宇宙は永遠に膨張を続け、再び収縮してつぶれることはなさそうです。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-3. なぜビックバンが起こったのでしょうか、無から何故宇宙ができたのでしょうか。ビックバンを起こしたエネルギーはどこから発生したのでしょうか。
答.A-1の回答を参照下さい。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-4. ビックバン直後の宇宙はどのような宇宙でしょうか。
答.高温、高密度で、ありとあらゆる物質が溶けたスープのような状態です。物質を構成する基本要素である電子やクォーク、そして光が大量に存在しており、それらが激しく衝突し、そしてそこには光もまた存在していました。クォークはその後、陽子や中性子となり、現在は水素やヘリウムとして残っています。電子は水素やヘリウムに捕らえられて水素原子やヘリウム原子となりました。またビッグバン直後には、これ以外にも現在ではほとんど存在していない反粒子(質問A-9参照)も大量にあり粒子と衝突して光になる反応と光から粒子・反粒子が生まれる反応を繰り返していました。また、未だ人類が見つけていない粒子も存在していたのではないかと考えられています。例えば超対称粒子と呼ばれるものです。これを実験的に作る試みが、スイス、フランス国境にあるLHCという加速器によって行われています。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-5. 宇宙はどのようにできたのでしょうか?
答.A-1、A-2を参照下さい。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-6. ビックバンとは何でしょうか。どのようにしてビックバンから星ができるのでしょうか。
答.ビッグバンとは、宇宙初期の高温・高密度状態を指します。そこでは、A-4に見たような様々な物質が存在していて、それらが絶えず衝突し、よく混ざり合った熱平衡状態が実現されていました。高温だった宇宙がやがて冷えてきて、水素やヘリウムなどの元素が誕生します。A-8を参照してください。宇宙がはじまってから3分程の時代です。やがて、さらに温度が冷えてきて、水素原子が周りに漂っている電子を捕まえる時代がやってきます。宇宙誕生後38万年の時代です。この時、宇宙では自由に漂っている電子が激減し、そこにある光が自由に進めるようになります。宇宙の晴れ上がりです。さて、晴れ上がりから数億年以内に、宇宙に存在していた水素ガスは重力によって集められます。核融合が始まるのに十分なだけの密度、温度に到達した水素ガスの塊はやがて光をだし輝き始めます。星の誕生です。宇宙最初期の星を直接見つけるために巨大望遠鏡や宇宙望遠鏡が観測を進めています。現在はすばる望遠鏡によって見つけられた宇宙誕生後8億年の星が最も初期のものです。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-7. 時間がビックバンと共に始まったのなら広がり続ける限り時を刻んでいると考えると、もし縮みだしたりしたら時の流れは今よりゆっくりなるのでしょうか。
答.現在、時間はセシウムの原子時計によって計られています。これはセシウム原子の出す放射の周波数を元に時間を決めるという原理です。このように時間というのは、物理過程によって決められます。宇宙の膨張がどのようになろうとも、セシウム原子の状態は変わりません。そのため、時の流れは変わることはありません。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-9. 反粒子は今現在どこにあると考えられているのですか?
答.電子や陽子などの通常の粒子に対し、質量が同じで電荷が逆符号の反粒子というものが存在していることが1930年代には明らかにされました。電子に対する反粒子は陽電子、陽子に対しては反陽子です。反粒子と粒子が反応すると光を出して両方とも消滅してしまいます。反粒子の存在を理論的に予想したディラック、宇宙線の中に反粒子(陽電子)を発見したアンダーソンの二人ともノーベル物理学賞を受賞しています。
さて、宇宙のごく初期には、粒子、反粒子はほぼ同じ数あったと考えられています。しかし、何らかの理由で、粒子の方がおよそ10億個に対して1個だけ多く作られました。宇宙の温度が十分高かった時代には、粒子と反粒子が消滅しても、再び光から粒子・反粒子が対で作られました。しかし、やがて温度が下がって、光のエネルギーが粒子、反粒子を作り出すのに十分な値ではなくなると、粒子と反粒子は消滅してしまいます。実際に、陽子と反陽子(クオークと反クオーク)は宇宙誕生後0.0001秒の時代に、もっと軽い電子と陽電子は4秒の時代に消滅します。もし、粒子と反粒子の数が全く同数であったとしたら、この時以降は宇宙には物質も反物質も存在しなくなり、光(とダークマター)のみが残されることになります。しかし、実際の宇宙には物質が残されています。それは、10億個の粒子と反粒子が消滅して20億個の光子を作る際に、1個だけ粒子が残ったからだと考えられているのです。なぜ自然がごくわずかだけ粒子をひいきして多く作ったのかを調べるための実験装置が筑波市にある高エネルギー加速器研究機構にあるB-Factoryです。
なお、現在の宇宙でも銀河の中にある宇宙線が原子核を叩くことによって作られることはあります。銀河系を走り回っている宇宙線には、こうしてつくられた反陽子が陽子の1万分の1程度存在しています。また、地球にやってくる宇宙線のうちエネルギーの高い成分が、地球の大気に衝突することで反粒子を作ることもあります。アンダーソンが最初にみつけた陽電子も宇宙線によって作られたものでした。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-10. 虚数空間・時間とはどういうことか、どういう状態なのでしょうか。
答.A-1の回答にあるように、一般相対性理論に基づく宇宙論では、宇宙の始まりの時刻0では宇宙は特異点になっています。この数学的に定義できない特異点を回避するために、ホーキングはハートルと共に量子論を一部相対論に組み込む際に、時間を虚数方向に逃がすことを考案しました。その虚数時間が単なる数学的な便法なのか、それとも本当に存在するのかは未だ分かってはいません。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-11. 宇宙は将来どうなるのでしょうか。
答.現在の宇宙がどう発展しているのかに非常に密接に関わっている問題です。現在の宇宙はダークエネルギーと呼ばれる斥力を及ぼす謎のエネルギーにその発展が支配されており、このため現在の宇宙の膨張は時々刻々と速くなっています。この加速の源であるダークエネルギーが今後ずっと存在するのであれば、いつまでも加速しながら膨張を続けます。ちょうど宇宙初期の大膨張インフレーションと同じように、現在の宇宙もまた、これから大膨張期を迎えるのです。このような永遠の膨張が、現在考えられている一番もっともらしい宇宙の運命です。
この場合には、やがて、銀河の間の距離が莫大なものになり、また互いの遠ざかる速度も非常に大きくなるために、遠方の銀河を観測することはほとんど不可能になります。さらに100兆年ほど時間が経つと、星々が燃料を使い果たし燃え尽きます。白色矮星などの燃えかすは残りますが、それもすぐに冷えてほとんど光らなくなり、さらには、陽子崩壊と呼ばれる元素の崩壊が進行します。これがどれだけの時間かかるのかはわかっていませんが、少なくとも1034年よりは後のことのようです。しかしいったん元素が壊れ始めると、星も惑星もばらばらになり、そこには電子と陽電子しか残らなくなります。ダークマターがどうなるかは、その正体がわかっていないために今のところ不明です。ブラックホールだけはいつまでも残っていそうですが、これも長い長い時間をかけてゆっくりと蒸発していきます。銀河と同じくらいのブラックホールの蒸発には10100年かかるといわれています。そしてついには、宇宙マイクロ波背景放射が膨張によって極端に引き延ばされた状態で残っているだけ(ことによるとダークマターも残っています)の冷たく暗い宇宙が残ることになります。
しかし、ダークエネルギーがいつまでも存在し続ける保証はじつはありません。宇宙初期のインフレーションと同様にやがて熱に転じて消えてしまうかもしれないのです。その場合には、宇宙全体が遠赤外線で輝くことになります。この後の宇宙がどのような運命をたどるのかは、宇宙の空間の曲率によって異なったものとなります。もし空間が正の曲率を持っていたとすれば、いつの日か膨張は止まり、そして収縮に転じ、宇宙は温度を高めながらつぶれていくことになります。また、負の曲率であれば、永遠に膨張を続け、その運命はダークエネルギーが存在し続ける場合と同様のものとなります。このどちらになるのかは、現時点では残念ながら判断はできません。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-12. ビッグバンのエネルギー源はなんですか。
答.A-1への回答にあるように、インフレーションを引き起こした真空のエネルギーが熱に転化したものだと考えられています。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-13. ビッグバンは繰り返すのでしょうか。
答.A-11の回答にあるように、現在の加速膨張のエネルギーが維持されていれば、宇宙は永遠に膨張を続けるので、繰り返すことはありません。ただし、そこでも述べたように、将来、最初のインフレーションと同様に、真空のエネルギーは熱に転換するかもしれません。しかし、この場合でもビッグバンなどという高温状態にはならず、遠赤外線で輝くだけに留まります。ただし、その後、A-11の回答にあるように、場合によっては宇宙が収縮に転じ、つぶれてしまう可能性もあります。この場合には、収縮すると温度がどんどんと高くなっていきますので、ビッグバンの状態へと再び戻ることになります。最後につぶれてしまう瞬間に何が起こるのかは、宇宙の始まりと同様にわかっていませんが、ひょっとするとそこで再び膨張に転じ、膨張するビッグバン宇宙に戻るかもしれません。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-14. またいつか同じように宇宙の始まりはありうるのでしょうか。
答.私たちの宇宙が再び始まり(と同じ状態)を経験するかどうかは、A-11やA-13の回答で述べたように、宇宙が再びつぶれるかどうかにかかっています。A-1に述べた膜の衝突が宇宙の誕生である、という新しいアイデアを提案した研究者は、それが繰り返されるとも考えています。しかし、一方、A-3の回答にあるように、繰り返す宇宙ではブラックホールが支配的になってしまうという難点もあります。
一方、私たちの宇宙とは別の宇宙が生まれるか、という質問であれば、その答えはおそらくyesでしょう。私たちの宇宙が生まれたのと同じ物理過程によって、きっとこれからもどこかで新しい宇宙が生まれるのではないでしょうか。ただし、私たちからは遠く隔たっていますので、直接観測はできませんし、私たちの宇宙に影響が現れることもないでしょう。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-15. ビッグバンによって宇宙が生まれたという証拠はなんですか。
答.決定的な証拠は宇宙マイクロ波背景放射の存在です。宇宙のありとあらゆる方向から飛来してくる電波である宇宙マイクロ波背景放射は、1964年にペンジャスとウイルソンにより偶然発見されました。二人はこの発見によって1978年にノーベル物理学賞を受賞しています。
ビッグバンが存在したとすると、非常に熱い状態で宇宙は始まったことになります。そこは、A-4やA-6の回答にあるように、ありとあらゆる物質が溶けたスープのような状態であり、大量の光も存在していました。
光は、温度が高ければ、より青い光、つまり波長の短い光になります。人間の目に見える光はじつは電磁波と呼ばれる波のうちのごくわずかな部分でしかありません。波長が0.4ミクロン(紫色)から0.8ミクロン(赤色)程度の電磁波が可視光なのです。これよりも波長が短い電磁波は、紫外線、X線、そしてガンマ線と呼ばれます。ビッグバン初期にはガンマ線が宇宙に満ちあふれていたのです。
宇宙が膨張とともに温度を下げると、光(電磁波)の波長も長くなっていきます。温度が下がると青くなる、つまり波長が長くなるわけですが、空間の膨張によって波長が引き延ばされると考えても結構です。やがてX線、紫外線、そして可視光へと転じていって、A-6の回答で述べた宇宙の晴れ上がりの時期には、主に赤外線で輝いていました。もしこの時期に人間がいたとすれば、空全体が真っ赤に輝いて見えたことでしょう。
晴れ上がりの時期までは、光は他の物質、特に電子と絶えず衝突を繰り返し、直進することはできませんでした。ちょうど霧の中の光のように、乱反射され、遠くを見通すことができない状態にあったのです。
しかし宇宙誕生後38万年経ったときに起きた晴れ上がりで電子がほとんどすべて陽子に捕らえられることになります。そこで光はこれ以降は宇宙空間を直進できるようになるのです。この後も、宇宙の膨張によって波長は長くなっていきます。結局、137億年かけて私たちの所に届く時には、波長が数ミリメートルの電波になっているのです。これこそが宇宙マイクロ波背景放射です。その温度は、絶対温度2.725K(ケルビン)であることが、NASAの打ち上げたCOBE衛星によって明らかにされました。このことを受賞理由としてCOBE衛星の責任者、マーサーに2006年のノーベル物理学賞が授与されています。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-16. インフレーション理論では誕生直後の宇宙が10〜34秒で10〜100倍も膨張したと教えられました。一方、光速は1秒約30万キロメートルと伺っております。「光速より早いものはない」と思い込んでおりましたが、どう考えればよいでしょうか?
答.A-1の回答にあるように、インフレーションは宇宙誕生後10-35秒の頃に起き、10-33秒ほど続いて、その間に空間を30桁以上も拡げたと考えられています。このような大膨張では確かに質問にあるように、空間が光の速度を超えて拡がっているかのように見えます。
では、このことは特殊相対性理論を破ってしまっているのでしょうか。じつはそうではないのです。このことは、時間をどう測るかという問題と密接に関わっています。もしも、神様のような観測者がいたとして、神の視点・時間で二点が遠ざかる速度を測定したとすれば、確かに光の速度を超えるでしょう。しかし、その二点のうちの一方(A点とします)に観測者がいてもう一方の点(B点)の遠ざかる速度を測るとそのようなことにはなりません。神の視点で見て光の速度で遠ざかるようになったときにB点から放たれた光が、A点に到達するには、無限の時間がかかることになるのです。つまり、光の速度を超えたらB点からA点にもはや光が届かなくなるわけです。ではA点ではどのようにB点が見えるのかといいますと、光の速度に近づきつつ遠ざかるB点の過去の姿が観測されます。やがてB点から届く光で見るかぎりB点では時間がほとんど経過していないように見えることになります。
これは、ちょうどブラックホールに落ち込むロケットを外部の観測者からみると表面にむかって非常にゆっくりと落ちていくように見えるのと同じ状況です。外部から見ている限り、決してこの表面を通過することはありません。到達するのに無限の時間かかるのです。しかし、ロケットにいる観測者にとっては、時間は普通に流れ、なんの問題もなく表面を通過することができます。もっともすぐに潮汐力でバラバラにはなってしまいますが。
インフレーション宇宙では、ブラックホールの場合と同じく、事象の地平線と呼ばれる「表面」が形成されるのです。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-18. 今宇宙はものすごい勢いで拡大中とききますが、そのエネルギーはビッグバンで生じたエネルギーでしょうか、
それとも各銀河系内の恒星の誕生から死までに発生するエネルギーでしょうか、又その速度はどのくらいですか。
答.宇宙を膨張させているのはビッグバンで生じたエネルギーです。その元となったのは、A-1の答えにあるように、インフレーションを引き起こしたエネルギーで、真空が持っていたと考えられています。真空は決して「からっぽ」の状態ではないのです。
宇宙の膨張の速度ですが、空間全体が拡がっていますので、遠方の天体はすべて私たち観測者から遠ざかり、その速度は距離に比例します。例えば、1000万光年の距離にある銀河Aと2000万光年の距離にある銀河Bを考えてみましょう。宇宙が膨張して、将来今の2倍の大きさになったときには、AとBまでの距離は各々2000万光年と4000万光年に伸びることになります。まずどちらも遠ざかっていることがわかります。そして、現在から今の2倍の大きさになるまでの時間で、Aまでの距離は1000万光年伸び、Bまでの距離は2000万光年伸びたことになるわけですから、遠ざかる速度はBの方がAよりも2倍速いことになります。空間全体が膨張する宇宙では距離に比例して速度は大きくなるのです。
現在の宇宙では、1000万光年かなたの銀河の遠ざかる速度は、およそ秒速220kmです。この速度はどうやら時々刻々と増しているようです。それはダークエネルギーという謎のエネルギーの働きによるものと考えられています。通常の物質であれば、そこに働く力は重力であり、互いに引き合う力、すなわち引力しか存在しません。すると宇宙の膨張は、必ず引力の働きで遅くなっていくはずなのです。斥力として働くには、ダークエネルギーを考えなければなりません。エネルギーがわき出してくることによって、宇宙の膨張を加速させるという仕事を行うのです。現在、ダークエネルギーの正体を明らかにするための理論及び観測研究が進められています。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-19. 私たちは宇宙といえば、球形を想像するのですが、それ以外の形、例えば板状のものが湾曲したいたり、ドーナツ状であったりとかの可能性は、理論上または、痕跡が発見されたことはないのでしょうか。
答.宇宙の形については、空間の曲がりという空間の場所ごとの性質と、トポロジーと呼ばれる空間全体の構造を分けて考える必要があります。
質問にある球形の空間は、トポロジーを示しています。このような空間では、どこの方向にまっすぐ進んでみても、やがて元の場所に戻ることになります。これをコンパクトな空間といいます。一方、球形の空間であれば、曲率もまた正になります。曲率正とは、三角形を描いたときに内角の和が180度よりも大きくなる場合です。実際に球体の表面に三角形を書いてみてその内角の和を求めてみれば、このことはすぐにわかるでしょう。例えば地球儀で北極から90度はなれた直線を二本、赤道に向けて伸ばします。この直線と赤道がつくる三角形は頂角が90度、二つの底角も90度の三角形ですから内角の和は270度になるわけです。
一方、曲率が0の空間(三角形の内角の和が180度)は、普通は平坦に無限に拡がっているトポロジーと考えます。しかし、これ以外にも、平坦だが周期的な空間というのも考えることが可能です。例えばドーナツ型のトポロジーがそれです。空間を四角く切り取り、その上下の辺と左右の辺を張り合わせれば、ドーナツができあがります。このような空間では、球形の場合と同様、ある方向に進んでいるといつのまにかもとの場所に戻ってくることになるのです。コンパクトな空間です。負曲率の空間(三角形の内角の和が180度よりも小さい)でも、無限に拡がっている場合だけでなくコンパクトなトポロジーを考えることが可能です。
実は、一般相対性理論は空間の場所ごとの性質を扱うために、トポロジーについてはなんら制限を持ちません。数学的に考えられるトポロジーであれば、どのようなものもこの宇宙では実現可能なのです。
しかし、実際の観測においては、未だに、空間がコンパクトである証拠は見つかっていません。観測的には宇宙が十分に小さな周期でコンパクトであるとすれば、ある方向に見える銀河がその全く反対方向にも見つかるはずです。また、全天に拡がっている宇宙マイクロ波背景放射の温度分布にも、独特の温度パターンが生じることが予想されます。ある研究者は、後者の測定により宇宙はコンパクトかもしれないと言っていますが、今のところ確実な証拠とはいえません。宇宙のトポロジーは無限に拡がっているか、それとも最低限現在の宇宙のサイズ、137億光年(厳密にはA-20の回答にあるように466億光年)よりも大きな周期性をもったものでなければいけないようです。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-20. 現在考えられている宇宙の大きさ130数億光年(直径ではその2倍)になったのはいつ頃ですか。
答.宇宙の大きさは、光の到達できる限界で決まります。光の速度は秒速30万kmですので、宇宙が始まってから1秒後には宇宙の大きさは30万kmということになります。また1年後には、光が1年で到達できる距離、つまり1光年にその大きさは拡がります。このように宇宙の大きさは時々刻々と大きくなっていきます。現在の宇宙の年齢は137億歳といわれていますので、現在の宇宙の大きさは137億光年です。今後も宇宙の大きさは拡大していくことになります。
なお、厳密に言うと、宇宙の大きさは少し異なったものとなります。それは、宇宙が膨張しているからです。137億年かかって光が到達する間に、空間も大きくなります。その分を勘定にいれると、実は現在の宇宙の大きさは、466億光年ほどになるのです。これは大きさの定義の問題だと思って下さい。通常マスコミでは137億光年を採用していますが、厳密に膨張を考慮するとはるかに大きな値になるわけです。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-21. 誕生後の宇宙の大きさ、温度、膨張速度について時間経過を追っての変化をどのように考えているのでしょうか。
答.宇宙の大きさ、温度、膨張速度は物理法則によって計算することが可能です。それは一般相対論による宇宙論の基礎方程式とエネルギーの保存則により計算されます。空間の拡がりの時間発展がこの計算によって求めることができるのです。空間が拡がると、温度はそれに反比例して下がっていきます。このことはエネルギー保存則を表している熱力学の第一法則に基づく関係から求めることができます。外部と熱のやり取りをしていなければ、膨張するための仕事に内部の熱が使われ、温度が下がるのです。宇宙に存在する物質の密度はやはり空間の拡がり(の3乗)に反比例して減少していきます。物質がどこからかわき出たり消滅したりしない限り、空間が拡がれば体積(空間の拡がりの3乗に比例)に反比例して密度は下がるからです。このようなことから、宇宙の大きさや温度、物質の密度、そして物質密度の作る重力によって決定される膨張速度などの時間経過を計算できるのです。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-22. 宇宙はどこ(座標)で誕生したのでしょうか?
答.多くの研究者は、宇宙はどこか一点で誕生したけれども、ごく短い時間経った後に起きた大膨張、インフレーションにより空間全体が膨大に引き延ばされたと考えています。最初の一点は、現在見えている宇宙全体を越えて拡げられたのです。ですから、現在の宇宙でいえば、観測できる範囲のあらゆる所で誕生したといえます。もし、インフレーションで拡げられた限界、つまり「端」が将来見えてくるようなことがあれば、その時、どの点を中心に膨張したのかはっきりするかもしれません。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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質問A-23. 宇宙が誕生したときは12次元あったのでしょうか?
答.A1の回答にあるように、超弦理論では宇宙が誕生した時には、時間空間が11次元あったのではないかと言われています。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
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B.宇宙の果て・膨張宇宙
C.ブラックホール
D.物理・天文
質問D-3. 宇宙はどうして無重力なのでしょうか。酸素(空気)がないのでしょうか。
答.私たち人間は地球に住んでいるので、地球の及ぼす重力を感じます。地球の重力は中心に向かって働くので、地表に住む私たちには、どこにいても大体同じ重力が下向きに働くと感じるのです。宇宙空間に出ると、普通は地球のようにすぐ近くには星はありません。私たちが天の川の星々の間に仮に立っているとしましょう。私たちには周りに見える星々から、つまりいろいろな方向から星々が引き付ける力の集まりを感じることになります。地球のように、ひとつの方向だけから引き付けられることがなく、また、星々は地球の半径に比べるとはるかに遠くに存在するために、非常に弱い重力しか感じないのです。これがいわゆる無重力なのです。厳密な意味では決して無重力ではなく、たくさんの星の力が色々な方向から私たちを引き付けているのです。仮にこの状態に空気の塊を置いたとしても、重力は弱く、圧力もないために、空気はあっという間に飛び散ってしまうはずです。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 福井康雄)
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質問D-23. 宇宙から電波がとどいているそうですが、どこからでているのか、どうしてでているのでしょうか
答.電波とはなんでしょうか?私たちの普通の暮らしでは、テレビの放送は電波によって運ばれています。放送局にはアンテナがあります。アンテナからでた電波は、空気中を伝わって私たちの家庭のテレビアンテナで受信されています。つまり電波を出したり受けたりするためには、アンテナが必要なのです。アンテナは金属でできています。金属は電気を通します。電気の流れ、つまり電流の正体は、−の電気を帯びた小さな粒、電子なのです。電子は−の電気を帯びていますが、金属で出来たアンテナの中にたくさん蠢いています。放送局の発信機は、この電子達を精密に揺すぶることができるのです。揺すぶられた電子は、放送局のアンテナの周りの電界の分布を規則正しく変化させます。この電界の変化こそが電波の正体です。家庭のアンテナは空中を飛んできた電波によって、中の電子が発信機と同じように規則正しく揺すぶられます。その信号を再生することで放送局の画面と音が再現できるのです。宇宙でも同じように、色々な天体には電子がたくさんつまっています。この天体中の電子が様々な運動をすることによって色々な電波が出ています。この電波を観測することで、私たちは天体の様子を探ることが出来るのです。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 福井康雄)
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E.銀河・銀河団・ダークマター
質問E-3. 渦巻き銀河の起源について教えて下さい。
答. 銀河は星の集まりです。銀河には大きく分けて、円盤状の渦巻き銀河とアンパンのような楕円銀河とがあります。渦巻き銀河の特徴は、星とガスでできたこの円盤がとても薄く、全体が秒速200kmくらいで回転していることです。光の写真をみると、何本かの渦巻状の腕が観察できます。渦巻き状の腕がどのようにして出来たのか?これはまだ十分に説明がついていないのです。おそらく、星々の重力と回転の影響で銀河内の物質がこのような渦巻状に分布するのであろうと、想像されています。しかし、すべての天文学者が納得する説明は残念ですが、今のところありません。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 福井康雄)
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質問E-8. 天の川は何で出来ているのでしょうか。
答. 天の川は主に、お星様と、お星様とお星様の間の空間にあるガスと塵から出来ています。重さを比べると、星々の方が星間物質よりも十倍くらい重いことが分かっています。お星様の総数は二千億個くらいです。天の川は渦巻き銀河のひとつなので、星々は中心の周りを薄い円盤状になって回転しています。天の川の中心には太陽の三百万倍の重さをもつブラックホールがあると考えられています。実はこの星と星間物質以外にも、ダークマターと呼ばれる正体不明の物質が天の川を構成していると考えられています。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 福井康雄)
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F.太陽・恒星
質問F-9. 宇宙にはどれだけの星があるのでしょうか。
答. 一個の銀河には概ね一千億個の星が含まれています。天の川もそのような銀河のひとつです。非常に遠くまで宇宙を観察すると、宇宙全体ではおよそ一千億個の銀河があると考えられます。つまり、星の数としては、一千億×一千億=10^22(10の22乗)の星があるのです。ただし、ここで言う星とは、太陽のように自ら光を発して輝く星のことです。自分では輝かない地球のような惑星の数は、もっと多いと予想されます。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 福井康雄)
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質問F-3. 太陽の核融合反応で出来る一番重たい物質は鉄だそうですが、 地球上には鉄より重たい物質があります。それはどの様にして出来たのですか?
答. 宇宙で起こる核融合反応には、大きく分けて二つの種類があります。ひとつは星の内部(中心部)で起こる、熱核反応です。この場合には水素・ヘリウムに始まる核反応が進み、最後は鉄が作られます。なぜ鉄が最後なのかと考えてみると、鉄という元素は最もエネルギー的に安定な元素であるためです。鉄よりも重たい元素を作ろうとすると、逆にたくさんのエネルギーが必要になり、星は崩壊してしまうのです。もうひとつの核融合反応の仕組みは、星の大爆発=超新星爆発の瞬間に一気に起こる、爆発的な核融合反応です。星の内部での反応に比べると、はるかにエネルギーの高い爆風によって鉄よりももっと重い物質が作られるのです。このようにしてつくられた重たい物質は星間空間に飛び散り、太陽系が生まれたときに取り込まれたのです。そのような重たい物質が地球上にも存在しているわけです。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 福井康雄)
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質問F-4. 太陽はなぜあんなに大きいのでしょうか?
答. 太陽の大きさは地球の100倍くらいあります。つまり体積はほぼ、100×100×100の百万倍です。ただしその密度は水よりちょっと大きいくらい、1cm3あたり、1.5グラムです。これは地球の1/3以下です。太陽は自分自身の重力と内部のガスの圧力がバランスしてこのような大きさを保つことが出来るのです。それでは太陽の圧力の原因はなんでしょうか。太陽内部の平均温度は100万度くらいです。地球上のガスの温度は絶対温度で300度です。つまり太陽の内部は、3000倍くらい地球大気よりも高いのです。また、密度は10万倍くらい地球の空気よりも濃くなっています。圧力は粒子の数と温度に比例します。つまり太陽内部の圧力は地球大気の圧力よりも一億倍くらいたかいのです。この巨大な圧力が太陽が小さくつぶれるのを妨げ、あの大きさを保つ原因になっています。100万度の温度はそれではなぜ実現されているのでしょうか。その答えは太陽の中心部にあります。太陽の中心部はさらに10倍以上温度が高まり、密度も100倍くらい高くなっています。そこでは水素同士が結合し、ヘリウムになる核融合反応が起きています。この反応によって、全人類が今、一日当たりに消費している総エネルギーよりも約78兆倍もの大きなエネルギーが発生しています。これが太陽の高い温度と高い圧力をささえているのです。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 福井康雄)
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質問F-19. 星が発見された時にその質量を太陽何個分と表現しますが、なぜそれが分かるのでしょう?
答. 星の重さは秤で量るわけにはいきません。最も身近な太陽の重さはどのようにして量られたのでしょうか。実は地球をはじめとする惑星の運動を通して太陽の重さは量られたのです。自然界には万有引力の法則があります。この法則によれば、万有引力、つまり重力は、引き付けあう天体のそれぞれの質量に比例します。またそれぞれの間の距離の2乗に反比例します。距離が2倍なら1/4、3倍なら1/9に重力は弱くなります。中心の天体からの距離によって力の大きさが大きく変わるのです。この引力は、ほぼ円軌道を通る惑星については、遠心力とバランスします。遠心力は公転速度の2乗に比例し、距離に反比例します。この重力と遠心力のつりあいの式を解くと、天体の質量は公転速度の2乗と、軌道半径に比例することが分かります。この関係を使って惑星の運動を観察し、太陽の質量が求められたのです。
連星の場合は、同じ関係を使って、星々の質量を求めることができます。ただし、星々の大部分は太陽と同じ水素を燃やして輝いている星です。このような星々については表面の温度と質量が一定の関係を満たします。つまり星の色が分かれば、星の重さが求められるのです。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 福井康雄)
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質問F-24. 恒星の寿命はどれくらいでしょうか。
答. 太陽の寿命は約100億年です。この寿命はどのようにして決まっているのでしょうか。太陽の内部では核融合反応が起きています。水素の原子核が4個結合してヘリウムの原子核をつくります。そのためには1000万度以上の高温が必要です。太陽のこの反応は中心で起きています。太陽が誕生した当初は、太陽の中は水素でいっぱいです。しかし時間と共に、燃えカスであるヘリウムが増えてきます。ヘリウムが太陽の重さの1/10程度になると、核融合可能な高温部分はヘリウムで埋め尽くされます。これ以上水素を燃やすことはできなくなるわけです。これが太陽の寿命、100億年を決めているプロセスです。それでは太陽の10倍の重さをもつ星はどれくらいの寿命をもつのでしょうか。重い星の中心部は、圧力が高くなるために温度は1億度くらいにまで上がります。核融合反応は、温度が少し上がるだけで急激に反応のスピードが速まる性質があります。実際に太陽の10倍の重さの星は、太陽の1万倍の明るさで輝くのです。この星の燃料となる水素は、太陽の10倍ありますから、もし太陽と同じ明るさで輝いていれば太陽の10倍長生きできます。しかし1万倍の明るさで輝くために、その1/1万の短い寿命になってしまいます。つまり、100億年×10÷1万=0.1億年がこの星の寿命です。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 福井康雄)
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G.惑星・衛星
H.宇宙開発
I.宇宙人
質問I-2. ウルトラマンはいますか?
答. ウルトラマン世代としては、ウルトラマンの存在は是非とも肯定したいところです。もちろんウルトラマンそのものは大学院生の回答にあるように、テレビのキャラクターであり、円谷プロの創作です。しかし、この質問をもっと拡げて、宇宙にはウルトラマンのような生命体が存在していて、地球にやってくることはあるのか、という質問に置き換えてみます。
一般論からいうと、宇宙にはおそらく地球以外にも多くの生命をはぐくんでいる星々が存在していると思われます。
最近になって、太陽系以外での惑星の発見が相次いでいます。銀河系にはすでに惑星は200あまりも発見されていて、惑星系を持つ恒星というのは決してまれなものではないということが明らかになってきました。
銀河系には星が2000億も存在していますので、たとえばその1/10に惑星系があるとしても200億個の惑星系があり、そこでは水が氷もせず沸騰もしないというちょうどよい場所に惑星がある可能性もかなり高そうです。さらにそれに生命が誕生する確率もかけなければなりませんから、実際に生命が誕生している惑星の数がどれだけかは、全くの推測の域をでませんが、それが1億個あったとしてもそれほど驚くことではないと思います。
これほど沢山の惑星に生命が誕生すれば、文明を築く段階にある惑星も中にはあるでしょう。
ではそのような惑星がウルトラマンのふるさとなのでしょうか。
オリジナルのウルトラマンによると、彼はM78星雲からやってきたことになっています。M78星雲のMとは18世紀に活躍したフランスの天文学者チャールズ・メシエ(Messier)の頭文字をとって付けられています。メシエの作った星雲のカタログは、現在に至るまでよく用いられています。有名なところでは、平安時代に起きた超新星爆発の残骸であるかに星雲がM1、私たちの隣にある大銀河であるアンドロメダ銀河がM41となっています。
さて、M78星雲はオリオン座にある散光星雲で、私たちの銀河系にあり、そこまでの距離はおよそ1600光年です。この星雲は主にガスや塵でできているのですが、そこには45個ほどの若い星(おそらく1億歳未満)が見つかっていて、さらに現在も新しい星が生まれつつあることも明らかになっています。
もしウルトラマンがいたとして、地球にやってくるまでには少なくとも1600年以上の年月がかかることになりますが、彼らの寿命が非常に長ければそれも可能かもしれません。それより問題は、この星雲にある星がどれも若いものばかりである、ということです。そこで生命が誕生してから、文明が十分に進歩する時間があったとは考えにくいかもしれませんね。地球では生命の誕生には8〜10億年程かかったようです。
なお、ウルトラマンのふるさとは実は、M87星雲であり、M78星雲というのは誤植によってそうなってしまったという説もあります。M87星雲は、おとめ座銀河団という銀河の集団の中核をなす楕円銀河で、私たちの天の川銀河(銀河系)の10倍以上の数の星の大集団です。距離は6000万光年の彼方になります。中心部に存在しているブラックホールからジェット状にガスが放射され、周囲を多くの球状星団が取り巻いています。このような巨大な銀河こそウルトラマンのふるさとにふさわしいように思います。この場合には、6000万光年という距離が問題になります。ワープ航法など、私たちの知らないテクノロジーを持っているか、それともふるさとから宇宙全体に拡がっていて、ウルトラ帝国銀河系支部太陽系派出所勤務がウルトラマン、ということでもないと、地球にやってくる確率はほとんどゼロになるでしょうね。
以上の理由から、M78星雲、ないしはM87星雲で生まれた生命体(ウルトラマン)が地球にやってくることは残念ながらなさそうです。しかし、数十光年以内の距離にある惑星から生命体が飛来する可能性についてまで、否定することは出来ないでしょう。信号を送るなどの試み(SETI)から初めて、いつの日にかファーストコンタクトに成功するかもしれません。
(回答者:名古屋大学理学研究科 教授 杉山直)
メモらせてもらいましたよっと。