「世界が終わる夜に」第1章 〜朝〜「世界が終わる夜に」第1章 〜朝〜
「う・・・・」
カーテンの僅かな隙間から漏れる細い一筋の光を目に受け、少年―西嶋 真生―は目が覚めた。
(んーと、今何時だ・・・?時計、時計は―)
真生は薄目で時計を見た。
(んだよ・・・。まだ6時前かよ・・・。もうちょっと寝れるだろ・・・。)
そう思うと真生は再び重い瞼を閉じた。
「ピピピピ・・・」
アラームの音で真生は再び目を開けた。カーテンを開けると日はとっくに上がっている。
(んー・・・・。もう7時になったのかよ・・・。全然寝た気がしねぇよ・・・。)
真生はまだ重い瞼を指で軽く擦った。その時、不意に後ろから階段を上ってくる音がした。恐らく、兄―西嶋 勇生―だろう。足跡はだんだんと近くなってくる。
「真生ー、起きてるか?飯食え、もうできてるぞ。」
「あぁ、わかった。」
やはり勇生だった。毎朝のことだから別段、誰なのか考えるまでもないのだが。
「じゃあ、俺もう行くからな。」
「あぁ。行ってらっしゃい。」
勇生の階段を下りる音が聞こえ始めた。真生はベッドから降りると、1つだけ大きな伸びをして、部屋の扉を開け、階段を下りた。
居間に入ると、母―西嶋 幸―が忙しく動いていた。母は背中を見せながら言った。
「あ、真生、起きたのね。ご飯済ませた後でいいから、玄関を掃いておいて。」
「はぁ?俺学校だっつーの。」
言った後に真生はしまった、と思った。母の顔がゆっくりとこっちを向いた。真生は目を合わせないようにすると、恐る恐る言った。
「あ、ははははは・・・・。今日は少し遅くてもいいんだった・・・。よし、玄関掃くかぁ!!」
「あら、ありがとう。さすが、真生ね。」
満面の笑みをして母は言っていた。しかし、それが作り笑いであることは真生は分かっていた。小さい頃からこんな感じだった。一度、掃除をしないで早々に学校に行ったら、学校に連絡までして、連れ戻しに来たこともあった。
(あれは本当に恥ずかしかったな・・・。)
教室で先生に言われ、真生が教室を出て行くときに後ろから笑い声が聞こえ続けていた。
(つーか、昔のことなんか思い出してねぇで掃除して早く行かねぇとっ!!)
「うし、終わった!!じゃあ、行ってくる!」
「はい。お疲れー。行ってらっしゃい。」
(あー・・・。やべぇ。間に合うかな・・・?)
T字路に差し掛かり、曲がろうとした時―、
「ばあっ!」
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!!」
急に声が聞こえ、真生は驚いて、その場で転倒してしまった。
「あっはははははは!!!「う、うわぁぁぁぁぁ!!!!」だって!!ははは、驚いた!?」
「て、てめえ!!テル!!よくもっ!!」
「待っててやったんだから、感謝くらいしてくれよなー。ふふふっ」
真生は立ち上がり、自分を転倒させた原因である少年―加藤 照公―を見た。真生よりも10cmは高い照公の目は面白そうに笑っている。
「ちっ。あぁ、どうも。おかげで驚きましたよ。」
「何だその感謝の仕方は。まぁ、お前らしいけどな。」
とりあえず、待っていてくれた照公と共に、真生は学校へ向かった。
このとき、真生は夜中の出来事を覚えてすらいなかった。