模倣体 after




あれから数年経った。




あの日から世界中のありとあらゆる場所に行き、美しいと思ったものをこのカメラに収めてきた。
コペンハーゲンのニューハウン。
イタリアのチンクエ・テッレ。
アメリカのモニュメントバレー。
オランダのキューケンホフ公園。
アトリエスタの時計台。
パーヴニールの美術館跡。
数えきれないほどの景色を見てきた。
どれもこれも非常に素敵な場所だった。

ある日…あれはストックホルムのガムラスタンのカフェだったか、あそこで日本人の男性に出会った。
たまたま店が混んでいて相席になったのだが、話しているうちに気が合い、いろんな景色を撮って回ってると話したら、ぜひその写真を見たいと食いつくようにお願いしてきた。
ちょうど現像したところだったので、出来立てのものを見せたら、非常に気に入ったようだった。
すると、彼は急に真面目な顔をして、これをまとめた写真集を出さないかと持ちかけてきた。

どうも彼は、どこかの出版社勤めで、世界の絶景を集めた写真集を出そうと考えていたらしい。
普通ならプロに頼むところだが、あえてアマチュアのものを起用したいと思っていたが、なかなかいいカメラマンを見つけられず途方に暮れていたところ、息抜きに訪れていたガムラスタンのカフェで私に出会ったというわけだ。
特に断る理由もないので、私は快く承諾した。




これが今から3ヶ月前の話だ。
今、私の手元には完成した写真集がある。
レイアウトとかそんな細かいことはわからないので、全て彼にお任せした。
表紙はニュージーランドのミルフォードサウンド。
中身は至ってシンプルだった。
よくある写真集と同じだ。
…懐かしい。
この数年で、これだけのものを見てきたのか。
1番最後のページには、無理を言ってあの丘の夕焼けを乗せてもらった。
あの時撮ったあの写真だ。


そして今、私はこれを持って、あの人の墓前に居る。
あの人が見たがってた、素晴らしい景色。
思ってたのとは違う形にはなってしまったが、それをあの人に見せるために。


きっと私は、まだまだ世界を回り続けるだろう。
もっとたくさんの素晴らしい景色を見るために、これからもずっと。



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終わり

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