北国ブラックアウト~横入り編~

ひたすら家族と一緒に水汲みに往復していた頃に先程家まで送っていった祖母から電話がかかってきた、どうやら手持ちの電池と水の残量が心許ないようなので買い出しを手伝ってほしいとの事だった。

程無くしてまずは近所の薬局に出向きそこで水と電池を調達しようと、まだ信号機が点いてない中を昼間とは言え慎重に車を走らせ到着したが案の定店内はいつもよりもかなり混雑していた。

仕方なくそれぞれ手分けして必要な物資を買う事にして私はその店に置いてあるウォーターサーバーに薬局カードと容器を2つ持って一人先客がいたので順番を待つ事にした。

だが何故か前のおそらく年上の男性客は何を思ったかおもむろにスマホを取り出してその水汲み中の容器を撮り始め、すぐ真後ろに私が並んでるのも一顧だにせず後退しながら写真を連写して私は慌てて少しだけさらに後退した。

それからしばらく店内を探していた家族が目的の電池が売り切れてるようなので、水を汲み終わったら他の家電量販店に行こうと話してる間にいつの間に現れてたのか自分と先客の間にたぶん年下の青年が横入りしていた。

驚きつつも努めて冷静に先に自分が並んでいた事を説明するがその黒縁の眼鏡をかけて黒いTシャツとジーンズをはいた私よりは若干背が低い青年は低い声で「だったらキチンと分かるように並んでろよ」的な発言を呟いたのをハッキリと耳にしてしまった瞬間ほぼ反射的に頭にカチンときて同時に堪忍袋の尾がブチンと切れてしまった。

普段は決してその程度の言葉で怒ったりしないがやはり深夜に地震に遭ったストレスとそれ以来熟睡できてなかったので、いつもよりも相当精神的にも情緒不安定でキレやすくなっていたらしい。

生来の虚弱体質に加えて筋金入りの引きこもり気質な為に初対面の人間とはイマイチ距離感が取れず四苦八苦するタイプなのに、逆にキレると見境無く真正面から立ち向かって叩きのめさないと気がすまない性分で子供の頃からよく周りと衝突しては喧嘩未満の小競り合いを繰り広げていた。

そんな訳で久方ぶりに学生時代の頃の調子でモロにガン飛ばして威圧し合ってた私らを家族でさえドン引きする最中、思わぬ方向から助け船ならぬ仲裁者が立ち塞がった。

なんと先程まで自分の前で水汲みしながらスマホで呑気に撮影してた先客の年上男性で約167㎝の私よりは頭1つ分高めの身長にラフなタンクトップと迷彩柄七分丈ズボンをはいたパッと見ちょいヤンキー面だが、どことなく覇気が無いのできっと不良グループでは子分的なキャラっぽい雰囲気の人がいかつい見た目よりは若干高めの声で揉めてる自分達を優しくいなしてきたのだ。

まさかの闖入者に二人とも面食らって意表を突かれて毒気を抜かれ私はまぁそこは大人として渋々ながらも言い争いを止めて順番を譲ってあげたのに、今度はその青年がウォーターサーバーでの水汲みのやり方を全く知らなかったらしく結果的にさらに無駄に時間を食う事になってしまった。

いつもの自分なら丁寧に説明してたが流石にさっきまで争ってた相手に教えてやる気も全く起きず後ろから腕汲みしながらただじーっと元喧嘩相手をジト目で静観してたが、どうやらその事に気づいたらしい見過ごせません終わって帰ろうとしてたさっきの迷彩柄のいかつい仲裁者がなんと今度は懇切丁寧に使い方をレクチャーし始めたのを見て心の中で仰天した。

語弊があるが意外と面倒見の良い性格らしくたぶん今日私と同じように誰が身内に頼まれカード渡されて初めてお店に水汲みへ来たらしく、別にわざわざ聞かなくても写真付きの分かりやすい簡単な説明書きが機械に貼り付けられて読めば一目瞭然なのにと思いながら目の前のやり取りを物珍しげに観察しながら順番を待っていた。

やっとこさ黒縁眼鏡青年が水汲みをすませ立ち去り私の番になったので普段通りにカードをリーダーに読み込ませボトルを設置する準備をしていると、何故か横合いから何事か先程のいかつい迷彩柄の男性が話しかけてきたが「いつもやってるので知ってますから」と断ったにも関わらず彼は中々立ち去る気配も見せずに一方的に私に向かって喋り倒してきたのには思わず辟易とした。

仕方なく汲み終わるまで地震の被害や停電についての憶測等を適当に受け答えしてると先に車に戻って待っていたハズの親父殿が何故か戻ってきたのであともう1本分残ってると告げると、ふと気づくとさっきまで私と話してた迷彩柄のあんちゃんがいつの間にやら今度は話の矛先をウチの親父殿に向けて喋り始めていてまたまた驚いた。

大概いつものパターンでは190㎝近い親父の長身に勝手に圧倒されて野郎どもはそそくさと居なくなるのがお決まりだったのに、どうやら年上の人にも慣れているらしく
全く物怖じする事なく堂々と先程まで私と話してた内容と若干違う話も織り混ぜながら会話し続けてるのを横目に見て「その無駄なコミュ力と会話術を分けてほしいもんだわ」と心の中だけで独りごちた。

どうやら彼を観察してるとおそらくは生来のお喋り好きで特に今のようなストレスフルな状況に陥ると無意識に誰かと喋る事で気を紛らわせたくなるタイプらしく、でもたぶん一人暮らしでこのまま家に帰っても誰もいないもんだから今は誰でもいいから簡易的に話し相手を求めてここに居座ってるようにも感じられた。

程なく2本目のボトルも満杯になりそのまま立ち去ろうとしてもやはり追い縋って来たので少しだけ足早に車へ乗り込んでその場を逃れて、電池を求めて再びまだ信号機の灯っていない車道へと繰り出したがどの店も閉まっているか開いてても長蛇の列になっていた。

なるべく時間をロスしたくないので駐車場に車を止めて並ばずにまずは先に列の先頭に行きそこの店先にいる店員さんに電池を有無を確認してみたが、案の定どこもかしこも売り切れて軒並み品切れ状態だったので仕方なく自宅マンションに戻り手持ちから必要な分だけ祖母に譲り分けて当面はなんとか補填する事にした。


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