【短編】 サンタクロース
「ねー、おにーちゃん、さんたさんって、本当に、いるの?」
クリスマスを前日に控えたクリスマスイブ。
どうやら弟は学校で、「サンタクロース」の有無について言い合いになったらしかった。
どうしたものか、と僕は迷う。
本当にいるの?と聞かれても、なんとも返答しにくい。
弟は、不安そうに僕を見た。
「やっぱり……さんたさんは、いないんだ……」
目いっぱいに涙をためる弟を見て、なんでだか笑みがこぼれる。
「バカだなぁ。サンタさんはいるよ」
勢いよく顔をあげ、ほんとうに?と呟く。
「うん、本当さ。だって僕、サンタクロースを見たことがあるからね」
その瞬間、ぱぁっと弟の顔は明るくなった。
そして僕に、どんな顔だった、とか、本当に赤と白の服を着ていたの、とか、ソリで空を走ってきたの、とか、ひっきりなしに訊いてくる。
それに僕は、優しそうなおじいさんで、絵本と同じ服を着ていて、トナカイを連れてきていたよ。などと丁寧に答えた。
いつか弟は、本当のことを知ることになるだろう。
僕は、嘘をついたことになる。
それでもいいだろう。
今、ここにある笑顔が守られたのだから。
気がつけば弟は、嬉々として手紙を書き始めていた。
まだひらがなを習ったばかりであるその手が書いているのは、「さんたさんへ」。
「さ」が「ち」になっているが、伝わるだろう。
――――――――――――ふと、顔をあげれば、サンタクロースが僕を見て、穏やかに微笑んでいた。
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