桜が咲いたので

「シンタローッ!来たよー」
「ああ、アヤノか入れよ…って何で桜?!」
「え、綺麗だったから?」
「綺麗だったからって枝ごと折ってきていいわけねえだろアホか」
どうした。楯山文乃さんはこんなアホの子だったか。
アヤノの左手には、まぁ確かに言うだけはある綺麗な桜の枝が握られていた。花のつき具合や位置、蕾なども美しくて、芸術的な事はあまりわからないけれど確かに綺麗だと思った。だがしかし。

「まあ気にせず!いいからとりあえずあがらせて」
「いやいやいやいやよくねえから」
ガキか。ガキなのか。綺麗だったからとってくるってガキなのかそうなのか。

「もー入れてよ。シンタローにも綺麗な桜見せたかったから好意で持ってきてあげたっていうのにー」
だとしてもせめて現代文明に頼れ。携帯のカメラ機能使え。原始的手段はやめろ。
唇尖らしてぶーって言ったって無駄だ。可愛いけどそれとこれとは違う。

コイツ前々からバカだとは思っていたがバカ通り越してガキだった。手に入れたダンゴムシを自慢する幼稚園児だった。
あと虫をとってきたのを主人に自慢気に見せびらかす猫。これあれらに似てる。

「お前……
確かに綺麗だけど何も持ってくる事ないだろ。カメラ使うとか、なんかもっと他にあったろ?」
呆れつつそう言葉をかけると
「うーん。それもそうなんだけどさぁ」と、歯切れの悪い言葉が帰ってきた。阿呆でポジティブなコイツが言葉に詰まることなんてあまりないので少し変に思って続きを促すと
「うーんとね、私は直接この目でこの桜を見て綺麗だって思ったんだ。
私が感じた事をシンタローはどう思うのか知りたいの。だからなるべく私と同じ様な状態で桜見て欲しくてさ」
と、何だか臭いこと言い出した。
え、なにこれ。

「………」
「私が好きだなと思ったものは私が好きな人にはにはどう見えてるんだろう。って
好きな人のこと知りたいと思うのは当たり前だよね?
私シンタローのこと好きだし。うん。
それでシンタローも私と同じ気持ちだったらすっごく嬉しいなって」

好きだし。あたりからカアアッと頬に熱を感じる。
真顔でいう彼女のことが無性に恥ずかしくなって顔を背けた。それでも赤い顔がわかってしまうようで片手で顔を覆って恥ずかしい気持ちを隠そうと足掻いてみた。
「本当、バカじゃねえの……」

糞…もう、どうしようもないな。
情けなく声が震える。
コイツは何でこんなに俺の心を揺さぶる言葉を吐けるのだろうか。

照れてしまっている自分がどうしようもなく恥ずかしくて、
俺って仕方ない奴だよな、と一息ついてぼそりと言葉を落とす。

「俺も」

「好きだよ」

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