それは交差しない世界 1(バトルもの)

『彼ら』がいるのは、あつらえた様に何もない、赤褐色の荒野だ。

そして『彼ら』は、ともすれば物悲しくも思える大地の上で、剣を交えていた。

幾度も金属音がこだまし、刃と刃が激突した場所から火花が散る。

ただし、この光景をじっくりと観戦出来る者は少ないだろう。

何故ならば、その刃の動きは、最早視認出来るレヴェルではないのだ。

1秒間に10、20の斬撃を繰り出し、同時に10、20の刃を迎撃する様は、暴風という表現が一番良く似合った。

それ以前に、この光景を見て、表現に「人」という単語が混じることなどあり得ないだろう事は明白だった。

ピタッと、前触れも無く『暴風』は止まった。

そこにあるのは、二つの人影。

片方は、こんな場所で剣を振るうよりも、雑誌の表紙を飾るほうが相応しい様な、整った顔立ちの長髪の男。

衣服もブランドの品と言われても違和感のない様な深緑のスーツの上から、それらとは対照的な、使い古された感じのある、やや解れた肌色の布を羽織っている。

しかし、やはり印象は、剣など似合わない優男だ。

対して。

その男に向かい合うように立っているのは、まるでしっかりとした木を削った様な、無骨な表情の大男。

身長は2mに達しており、着ている服も、サイズは合っているのにどうにも窮屈な印象を与えられる。

着ているのは黒のジーパンとプリント入りの黒Tシャツ。

その上から、彼には似合わない白衣を着ている。

戦歴を思わせる筋肉と、武人の様な顔立ちは、自然と背中に人を集める様な、威厳と安心感を持たせている。

そして、その全く対照的な二人の手には、それぞれ個性的な剣が握られていた。



「しかし−−−」

先に口を開いたのは、優男のほうだった。

「−−−やはり、どうにも違和感が出るな」

そう言う男の手には、1mに届かない程度のロングソードが握られている。

剣は大体5cm程度の無数の刃で構成され、刀身と柄の接続部位には、まるで釣り竿のリールの様なワイヤーを巻き取るための機構が備えられている。

他にも観察すれば、幾つもの機構が組み込まれているのが判る。

問いかける様な言葉に、大男も応じる。

「追加した機能が邪魔をしている。

 軽量化とスペースの確保には成功しているようだが」

「だなぁ。

 これなら、いっそ追加機能を全部外して、持ち運びしやすい様に手を加えたほうが堅実そうだ」

「ああ。

 ‥‥‥こちらは、なかなかのものだ」

大男が握っているのは、1.5mはある剣。

刃は片方にしかついておらず、刀身には若干のそりがある。

また、その刀身にはにじんだ波紋が浮かびがっている。

柄は何らかの動物の皮で覆われ、その上から帯状の紐で縛られている。

そして刀身と柄の間には、円盤状の金属の板がつけられている。

板には文様が刻まれていた。

全体として、機能美と装飾美を兼ね備えた様な、何となく浮いた存在感を持つ剣。

恐らく、大男には『似合っていない』のだろう。

その剣を持つ姿に、珍しいものを見る様にしながら、改めて優男は感想を漏らす。

「‥‥‥しっかし、武器ならメイスからロケランまで何でも似合う男、B=ホーネットから、こんなにも浮いてしまう武器、か」

名を呼ばれ、返す様に大男もまた名を呼ぶ。

「その二つ名は、研究者としてはあまりほめられたものでは無いさ、X=サーパス」

B=ホーネットとX=サーパス。

それが、彼らの名だった。

それに、とホーネットは続ける。

「これは私の為の武器ではない」

「‥‥‥?

 こんなサイズ、扱えるのは君くらいだろう?」

「いや、これはあくまで製造の条件があっているかの確認の為だ。

 本来はもう少しスケールは小さい」

「ふぅん‥‥‥。

 それにしても、随分といつものゲテモノとは毛色が違うじゃないか」

ゲテモノだとッ!!と直後にホーネットは否定しかかったが、本人にも多少自覚はあるらしく、咳払いをひとつして会話に戻る。

「そうだな。

 設計図も制作方法も、わざわざ発掘したものだ。

 遺失技術、とでも呼べばいいか」

言いながら、その刀身を見定める様に目前に構える。

「‥‥‥美しい、とでも言うのか」

「お?

 君も芸術に目覚めた?」

「まさか。

 これは、仰々しくガラスケースに収める様なものではない。

 もっと‥‥‥そう、使うべきものが使い、遂に折れるその時までこそ、この剣は輝く、と言った感じだな」

「言うじゃないか。

 まぁ、確かにこれは鞘に納めっぱなしじゃ可哀想か」

そう締めくくると、彼らはそろって帰路に付く。

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