8月下旬
カタカタとその揺れは僕の体に伝わって、僕の脈と共鳴。
古ぼけた扇風機が頭上で不安げな悲鳴をあげながら首を回す。
ファンから生まれる人工的な風は定期的に僕の髪を揺らすけれど、
わずかに開いた窓から吹き入れる天然の風がそれをほとんど皆無にする。
都会の車体と比べると紅いシートは硬くて、
僕は体勢を10分ごとに変えなければならない。
駅で乗るときに見た限りでは3両編成だったと思ったけれど
乗ってる乗客をすべてあわせても1両で十分ではないかと思った。
僕はこれから新しい地で新しい生活を送るんだ。
今までに大切な人を失くし過ぎた。
祖父母、弟、両親、叔父、叔母。
残った身内は従兄だけ。
自分のことを世界一不幸な少年なんじゃないかと思うけれど
誰かに気を使ってもらいたいみたいな気がして
自分で自分が可哀相だと言い張っているようで
寒気がする。
だからその辺は一切感情に出さず
無機質に
周りの人と何等変わらずに
普通に生きてきたつもり。
これから始まる生活は僕を変えるだろうか。
少なくとも傍から見たら変わるべきところは自覚していない。
変わるとしたら内面かな。
中学校の修学旅行のときからバッグにつけたままのタッグが
今朝までの僕の住所を示しながらゆらゆらと不規則に運動している。
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