自然と人々がうまく調和している花の都、カリメル帝国。
その美しい国の町並みの中に、ひときわ目立つ建物がある。
それこそがこのカリメル帝国の宮殿、王族の住む、国のシンボルともいえる建物である。

「待ちなさーい!!」

東京ドーム二個分はありそうなバカでかい宮殿の庭に、使用人のカレンの声が響く。
「やなこってすー!!」
見かけは可愛らしく、上品な身なりをしているが、言動がいかにも庶民らしい少女が、庭を逃げ回っている。
この少女こそ、カリメル帝国の皇女、クレア・カリメルである。
姫はピアノのレッスンを抜け出し、城下街に脱出しようとしたところ、
カレンに発見され、追い回されているのだ。

「ふん、でもあと数メートルで私は城の外よ!
いくらあなたが軍隊に鍛えられたエキスパートだからって、私の足には敵わないんだから!」
国花のクロッカスの咲き乱れる花壇をまがり。鉄の柵を飛び越えようとしたそのとき、
「な、なんじゃこりゃ!?」
目の前に、姫が見たこともない巨大なレンガの壁が立ちはだかっていた。
どこの店にこんなにレンガが大量に売られていたのか知らないが、
それはそれはものすごい高さだった。
国家予算の出費が、最近とんでもなく多かったのだが、すべてはこの塀の為だったのだろう。
「こんなことのために、貴重な国家予算を無駄遣いしやがってええっ!!」
彼女は振り絞るように叫ぶと、勢いをつけて飛び上がった―――

カレンは、全力疾走で追い求めたが、ターゲットはもう城の外だった。
「う・・・嘘でしょおおおおっ!!!!」
姫は、使用人総動員で何十日もかけて作ったであろうレンガの塀を、ひょいっと飛び越えていったのだった。


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