しばらくすると、コンテナーにとりつけられた採光窓に、灰色の大地が見えてきた。ついに敵の本拠地、グレートブリテン島に上陸である。
あと20分もすればレイズナーのラボラトリに”ぶつかる”はずだ。
今回の作戦が奇襲作戦であるというのはいわずもがな、時間帯的には白昼堂々の侵攻となる。気付かれずに敵陣に接近できるのが理想的なのだが、攻め込む相手はテクノロジーの最先端を行くレアギアの母体だ。センサー類は当然のように充実しており、隠密作戦のプロであろうと接近すら困難だ。
比べてこちらは技術面で10年以上遅れていると言ってもいいほどに技術退化が進んでいる。ステルス加工を施すことも、隠密作戦用の人員を育成している暇もない。
となれば……多少強引だとしても、この飛空突撃艇で文字通り”ぶつかる”ほかない、というわけだ。
「無茶苦茶だ。」
シュトツァーが不意に呟いた。
「ん?何が?」
「……何も感じないか?この”死んだ土地”を見ても。」
シュトツァーの瞳は、小さな採光窓から飛び込んでくる灰色の光景を移している。
不毛地帯。
この大地の鼠色は、全てレアギアを生産する時に出た廃棄物だ。
様々な化学物質の帳が汚れたオイルと共に沈着し、雑草一株生えることない死の大地となっている。
たった一年でここまで汚れるとは、と、エリーは少し驚いたが、その感情は酷く鈍い、小さなものでしかなかった。
「……もう慣れちゃった。」
「……。」
シュトツァーは、そんなエリーの一言に何か言い返そうと考えているように見えたが、何も思い浮かばなかったのか、大きな息を一つ吐きながら引き下がっていった。
「でも不思議ね、生きてるものじゃないのに……”死んでる”なんて……。」
エリーは、膝元ですやすやと眠るリーを撫でながら、誰に言うでもなく呟いた。
「……じゃあこれが生きてるように見えるかよ?」
シュトツァーが怪訝そうな声で、これもまた呟くように吐きだす。
その一言がとてつもなく重たいものに感じられるのは、そのどっちつかずの具象……アーサーと深くかかわっているからだろう。
「じゃあ、生きてる生きてないの区別って、何?」
エリーのそんな一言に、シュトツァーは最後の牙を折られたようで、唸るように息を吐くと、もう一言も発しなかった。
少し言い過ぎたかな、と、エリーも苦い顔を浮かべた。だが、その言葉を撤回して謝れる気分でもない。
気まずくて、息がつまりそうな空気感。
そんな刹那だった。
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円卓の機士 第十章 s.2
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