・・・逃げる・・・?

逃げ場なんか何処にも見当たらない、呼べば出てくるとでも言うのか・・・。
男も女も関係なく殺し合い、目の色を変えて殴り合っている。修羅というよりも地獄絵図と言った方が頷ける。

苦しい・・・肺が腐るような感覚に陥ってくる。


血が霧のように立ち込めている気がして、吐き気がするのだ。
鉄臭い。

どこまでもこの瘴気が消えることはないように感じられた。


不意に、教室から血に溺れた男が飛び出してきた。


「紀子危な・・・!!」

「!!」


まさに紙一重で、紀子は包丁を避けた。

・・・が、無理に避けたために大きく尻餅をついた。


男は狙いを紀子一人に絞った。

大凡調理室からギッてきたのだろう、09と書いてある刺身包丁。


紀子は地面に手をついて後ずさりしたが、すぐに背後の柱にぶつかった。

「ケケケッ!死ねィ!」

口が裂けた男だった。中で暴れた際に切ったのだろう。
紀子は思わず目を閉じて、顔の前に手を出した。


「このおっ!!」


優貴が、男にタックルを仕掛ける。
男は案の定すっ転び、刺身包丁を落とした。

「あげっ!?」

「ぬぅぅやああああぁぁぁぁ!!」

言葉にならない言葉を叫びながら優貴は刺身包丁を振り下ろす。
紀子は、ようやく目を開けて、優貴が今この瞬間犯そうとしている罪の現場を認めたところだった。


グシュッ!


不快な音が耳の奥、三半規管のあたりで反響した。

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