駅から徒歩10分ほど歩いたところに、小さい水族館がある。
小さいと言っても、よくテレビのCMで見るような水族館と比べての話だが。
ちょうどイルカショーが始まる時間だったので、まっすぐ会場へと向かう。
毎月、一回は2人で来ては必ずこのショーをみていた。
ショーの後にはイルカに触れる体験をさせてもらえるのだが、彼女は20歳を超えても必ず参加していた。
イルカはこの世で3番目に好きだ、と言っていたのを思い出す。
ショーの後は、館内のレストランで少し早めのお昼を食べた。
頼むのは必ずイルカの形のライスにカレーをかけた「激辛イルカレー」だ。
2人とも辛いのに弱いのに、毎回これを頼んでは汗だくになりながら食べた。
食べた後は、適当に館内を回って帰るのが当たり前だった。
今思えばこれはデートのような物だったのかもしれないが、彼女はどう思っていたのかわからない。
たぶん、この先も。わからないままだ。



水族館を出てすぐにあるバス停から15分ほどにある、森林公園へと向かう。
中央にはおおきな湖がある。
それ以外は、特に遊具があるわけでもなく、湖の周りに散歩用の道が舗装されている程度だ。
水族館の後は決まってここに来ていた。
ただ湖の周りをぐるぐる周って、彼女のたわいもない話を聞いてるだけ。
「この湖にはヌシがいて、サルとお友達」だとか
「昔、悪い人たちがここの守神を見つけ出すために爆弾を仕掛けたことがある」とか、都市伝説や根拠のない噂話ばかり。
当時は、無知が服を着て歩いているような人間だったので、どの話も本当なんだと信じて疑わなかったが、大人になった今、どれも彼女の作り話だったんだな、と今更ながら思う。
なぜそんなことをしたのかは全くわからない。
…自分が思ってるより、私は彼女のことを理解していないのかもしれない。
ふと見ると、湖の中央に1隻のボートが浮いている。
近くに貸出所があり、ワンコインでボートを借りることができる。
1度だけ2人で乗ったことがある。
木造の、まっさらなボート。どこか沈んでしまいそうですこし不安だったのを覚えている。
それでも彼女は気にせず、ただひたすらにボートを漕いでいた。
「このまま、どこか知らない素晴らしい景色を見に行きたいな」
何があっても笑顔だった彼女が、唯一、すこし寂しそうな顔をしていた気がする。
そんな彼女に私は、なんて言ったのだったか。
………。











「探しに行こう、知らないところは無理だけど、この街で、綺麗な景色が見える場所」







…そうだ、そう言ったんだ。
それであそこを見つけたんだ。
海の見える、あの小さな丘を。




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