「灯也!!」

 俺の名前を呼んで駆け寄ってくるのは、俺のよく知る人物だった。

 綾川 美菜。

 付き合って3年で、今は一緒に暮らしている。

 彼女は、手にマフラーを持っていた。

「美菜!?なんで……」

「だって灯也、マフラー忘れて行ったんだもん。寒かったでしょ?」

 ふわり。

 彼女は背伸びしてオレの首にマフラーをかける。

「……ありがとう」

 ふふふ、と美菜は笑う。

「灯也もちゃんとお礼を言えるようになったね~」

「昔から言ってたぞ」

「嘘嘘!だって、出会ったころなんて、灯也、あいさつすらしなかったじゃない!」

「う……」

 楽しそうにスキップしながら、美菜は先を行く。

「はえぇよ……」

 こんなに寒いって言うのに、よくあんなに元気でいられるものだ。

 けど、そんな俺も、美菜が持ってきてくれたマフラーの御蔭で、さっきよりは大分寒さをしのげている。

「あ、灯也!!」

「なんだよ」

「久しぶりに、あの公園、行ってみようよ!!」

「はあ!?」

 こんな寒空の下、公園に!?

 あいつが何を考えてるのか、たまに分からなくなる。

 美菜はたったかと俺の元に戻ってきて、俺の手首をつかむ。

「ちょっとくらい、いいでしょ?」

 っていうか、俺の手首つかんだ時点で、俺の選択権はないよな。

 まあ、長い間あそこには行ってなかったし、たまにはいいかもしれない。

「……分かったよ」

 美菜はやったぁ!といって、俺に抱きついてきた。


 ……得したんだか、損したんだか。






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君のマフラー s.1
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