「……で、その塩化ビニルがどうしたの?」
「本当に知らないの? プラスチック人間だよ?」

プラスチック人間? はて、ついぞ聞いたことがない。
UMAの類か、それとも時代遅れの妖怪だろうか。
どちらにせよ非現実的すぎる。私はオカルトなどというものを信じない。

決して怖いとか、そういう物に危機感を感じているわけではない。本当だ。本当だ。大事なことだから二回繰り返した。実際私は、小学校3年生のころには深夜に一人でトイレに行くなど訳もなかった。


そんなことを考えながら怪訝に首をかしげる私を差し置き、タグチはさらに言うを続ける。

「白くて半透明のマッチョマンで、今、街のあらゆるところで目撃証言があがってるんだよ! 最初は愛知で、次は山梨の住宅街で、最近東京ではほぼ毎日のように目撃事例があるんだって。そして彼は近づいたり追いかけたりすると決まって、どこか知らない隙間へもぐりこんでしまうの」

そう言いながら、タグチは2枚ほどのチェキを取り出してこちらに差し出した。
ドジッ子属性で有名なタグチにしては珍しく、周到な用意である。私はその二枚の写真をつまんで、ひらひらと揺らしながら覗き込んだ。

そこにはタグチの言うとおり、牛乳を水で薄めたような色をしたのっぺらぼうが写っている。
なるほど、これは面妖だ。しかし、私はこういったものは全てプラズマで説明がつくと信じている。


「もう感光終わってるんだから、そんなに振らなくても見えるでしょ?」
「うむ、それはそうだ」

古い癖である。放っておけ。


「で、これを見せて私にどうしろというのだ」

「グマさん、情けないことを言わないでよぉ! こういうとき、名探偵なら好奇心をくすぐられるぅ!とか言ってすぐに行動するぐらいじゃなきゃあ」

情けないと言われればぐうの音も出ないが、そんな安いポルノの嬌声のような声をあげなければ探偵をやってはいけないのであれば、私は今すぐこの名刺入れを焼却炉に放り込まねばなるまい。ウェルダンで頼もう。

私はそんなあられもない声をあげる見た目は子供な名探偵を思い浮かべたことをひたすら後悔しながら、タグチを叱責した。

「そんなことをこんな公然の場所でやってみるがいい、それは名探偵であるかもしれないが、その前に変態だ。頭のいい私はそんな馬鹿な真似はしない。」

「あっ!そっか!」


ぽん、と手を打つタグチに、私は嘆息した。


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プラスティック・ネイション 1 s.1
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