トイレ掃除を終えた俺は、アンモニア臭から逃げるようにして、公園の広場のほうへと歩き始めていた。


風に揺れる針葉樹林が鬱蒼としていて、不気味である。そういえばこんな夜に一人で出歩くのも久しぶりだったな。こんなに心細くなるものだったのか。


……いや、そんな感傷に浸る前に、我が軍の作戦参謀に連絡をせねばならんのだったな。これではどっちが総大将なんだか。


俺は携帯を開くとクイックメニューから作戦参謀……赤屋の欄を開き、通話ボタンをプッシュする。

090……とナンバーが表示され、呼び出し中のカーソルが回転する。霜焼けの左手はポケットに突っ込みつつ、携帯を右耳に押し当てる。プルルと、コール音が聞こえてきた。



3コールほどの間をおいて、赤屋の携帯と繋がった。


「リーダーキタコレ!もしもーし!」

「……もしもし、俺だ。今また一つ片付けた。」

「おぉ!こんな時間にリーダー直々に作業!マジ指導者の鏡だわ!」


電話の向こうの赤屋は、いつにも増して興奮しているようだった。元々ではあるが、徹夜明けのテンションも相まってか、さらに饒舌になっている。


「そんなことより!作業状況はどうなっているんだ?もう時間もない!」

「うーん?そうだなぁ、まだどっちがどっちの発信機なのか観測できないけど、累計して換算するとこっちのが有利なんじゃないかな。」


赤屋は俺の焦りを感じたのか、少し神妙な口調に戻って、状況を報告した。

現状は優勢……残り時間のことを考えれば、そろそろ胸をなでおろしてもいいころだろうか。


この調子で事がうまく進めば、あの女の吠え面が無事に拝めそうだ。


「……よし、赤屋はそのまま事を進めてくれ。」

「モチのロン!開いてるトイレがあったらメンバーに連絡するわ!」

「あぁ、頼む。オーバー。」


通話終了ボタンをプッシュする。ディスプレイには34秒と表示されていた。

時刻は午前4時27分。タイムリミットまで約1時間といったところだ。


思えば、この3日間の血反吐を吐くような苦労も、泣いても笑ってもあと1時間で終わりなんだな……。

長かった……この3日間は、本当に……。

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ss. DIRTY? s.1
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