「皆は……魔法というものを知っているかな?」

一人の少年が、朗々とした口調で言葉を発した。

此処は城前学院高等学校の、無人の理科室。
扉と窓には鍵がかかっていて密室である。


「人間の進化は、その魔法を使うための進化だと言っても過言ではないんだ……。」

彼はそう言うと、どこか気障っぽい挙動で足を進め始めた。
その先にあるものは、人体模型である。

彼は人体模型のすぐ手前まで来ると、そこで足を止めた。
ただ突っ立っている人体模型の怖いほどの無表情を一瞥して、口角を引き上げる。


「人間が進化させてきた分野は何だろう?そう考えた時、一番に来るのはやはり脳髄なんだ。そう、脳みそ。」

人体模型の無表情な鼻先に、彼は自らの指を触れさせた。
人体模型の首は、それだけで無残に吹き飛ぶ。

木端微塵になった合成樹脂の破片は、その向こう側の壁に鋭く突き立って弾けた。


「ここが、世界の全てを操るパーツ……魔法を使うためのパーツなんだ。」

ニヤリと静かな笑みを浮かべる。

「では何故我々は、今現在、魔法を使役できないのだろうか……?」

理科室の中は静寂に包まれていた。
誰も居ない、この少年以外は誰も居ない。答えなど帰ってくるはずもない。

それでもその少年は気にしない様子で、セリフを言うことをやめようとはしない。何かを朗読しているように、気障っぽい口調で、ただただ言葉を虚に吐き出し続けるのだった。


「それは、忘れてしまったからだよ。魔法を、魔法の使い方を。」


次の瞬間、その少年の姿は消失する。

授業の準備にやってきた高校教師が理科室の鍵を開けるまで、もう、間もなく……。

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暫定進化とセルロイド プロローグ s.1
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