「君、今ヤバイ奴らに狙われてるって、知ってるか?」

「へぇ、そうなんだ。」

「今ここで、急にドタマ撃ち抜かれても可笑しくないような奴らにだ。」

「だから?だから何?」

「だから君を助けに来た。」


「……嘘よ!!」


彼女が強く、強く、言葉を圧縮して、強い怒気として発砲した。
その言葉は俺の頬を掠めて、コンクリートの壁で跳ね返っていく。


「何でそんなこと言うために戻ってきたのよ……!嘘つき!」

どうやら信じてもらえないらしい。それはそうだろう、あれほどに裏切った男から、身の安全を気遣われてもどこか疑わしいのは分かる気がする。

ただ、あの裏切りは形式上のものだった。あぁしなければ彼女は今生きていなかっただろう。それは彼女も知っているはずだ。


「嘘じゃない、本当のことだ。」

「じゃあ何であの時!」

彼女の目から、小さな雫があふれ出た。

思わず、本音が口を突いて出て来る。


「君を、愛していたからだよ。」

気障な本音だ。まったく、俺らしくもない。


「黙れッ!!」

彼女は目を伏せて、耳をふさいで絶叫した。
もう聞きたくない、知らない、そんな声が、どこかから聞こえてきたような気がする。

おいおい、質問したのはどっちだよ。

なんてボヤきたくなったが、彼女は今多分、正気じゃないんだろう。
ただ今まで、憎むべき対象でしかなかった俺に、こうまで言われて、揺らいでいる自分が認められないんだ。きっと。

だから、今、彼女は自分を見失っている。固く塗り固めた決意を、一瞬で崩されたから。

この、コンクリートに突き立つナイフも、きっとそんな彼女の決意の表面なのだろう。
前々から腕は良かったし。このバカ力は正直規格外だが。


「変わらないな、そういうトコ。」


ふるふると、身体ごとかぶりをふって、俺の言葉を拒否しようとしている。

まだ分からないのか……。
っていうか、毎度大袈裟なんだよ、君は。


排気臭くて埃っぽい、ネオンの残光以外に何もなくて、飽和的にしか明るくならない工業ビルの屋上。
冷たく吹きさらす、夜の風。

それでも君は、ここへ来た。こっちが探しあてるよりはるかに早く。

なのにそんな、醜態をさらすために此処に来たのか?


……違うだろ?


「まぁ、俺がお前を裏切ったのは事実だしな……煮るなり焼くなり、君の好きにするといい。」

あえて、牙を脱ぎ捨ててみた。

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ss ウィメン・ビケイム・ア・ウィドウ s.1
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