ハーモニカの音が微かに反響する店内。
男の手の甲には、自己主張をしていないように、申し訳程度の刺青が入っていた。
道化師の紋章の外に、黒く線が引いてある。
前にもどこかで見たことがあるような気がするような、でも初めて見たような、不思議な文様だった。
「そうですか……では、無礼ついでに私から一杯ごちそうさせて頂きます。」
ラックの奥の方から、とっておきを引っ張り出す。
新しいベルモットの栓を開けて、シェイカーに目分量で注ぐ。
彼はそんな私の一挙一動を、楽しんでいるようだった。
「ジョーカー、です。」
作り上げたのは、アルコール度数が極めて高い、薬品レベルのカクテルだ。
文字通り最強の酒。一杯飲み干せば卒倒は間違いなく、ヘタをすれば急性中毒死なんてことにさえなりうる。
ただ、恐らく彼なら問題ないだろう。
私がその殺人カクテルを差し出すと、彼はニヤリと笑ってこう言った。
「ベルモット、入れ過ぎだぜ?」
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ss マティーニ・スタンダー・ブルース s.1
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