突撃艇の兵員コンテナの中は、静まり返っていた。

飛空突撃艇のエンジンが駆動する轟音でもともと会話など出来る環境ではないのだが、それを抜いても静かすぎる。
皆、1時間後の作戦のことを考えているのだろう、武者震いしている者もいれば、最後の睡眠とでも言うように毛布にしがみついている者もいる。

確かにこの作戦内容は一見死にに行くようにも見える……無理もない。

エリーは一つ、小さなため息を吐いた。


「どうしたのー?」


せいいっぱい張り上げた高い声に気付き、エリーがそちらを見るとそこにはリーが座っていた。
くりくりとした、いかにも少女らしい瞳でこちらを見つめている。この視線が、今はとてつもなく重く、後ろめたい。

父親、いや、それ以上に慕っていたゲントがMIA……作戦行動中行方不明に認定されたのは、つい一昨日のことだ。だというのに、彼女はまるでそれに”気付いていないような”顔をする。

気付いていないのならば、「待っていて」とひとこと言えば、言葉通りグリーンランドで待機していてくれるだろう。
だが彼女はついてきた。ガンバックの中にもぐりこんでまで。

気付いていないわけがない、彼女はゲントが散る間際まで傍に居たのだから。


「……なんでもないよ。」

「そうなの?」


よかった、と言ってにっこり笑うリー。とても4歳の少女とは思えない、優しい笑顔だった。

彼女がある意味一番大人なのかもしれないな、と思いながら、エリーはリーの頭を撫でてやる。

こんな幼い少女ですら自分の気持ちに決着をつけているのだ。自分もいよいよ胎を括らねばなるまい……。

エリーは鈍色の視界を閉じて雑念を振り払った。

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円卓の機士 第十章 s.1
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