「……。」

殺風景な部屋のベッドに、紅い髪の男が仰向けになっている。

彼の名はクジ・コウ。軍事大国エトビリアの学徒兵。エトビリアとキジョー、異なる血を引き継ぐ者……

それ故に、死んでもいいというレッテルを貼られた者。

彼は黙っていた。




軍の基地施設には、兵員の寄宿のための居住区画がある。

それは辺境のエトビリア・ビスケマ・キジョー三角不可侵地帯基地であっても例外では無く、コウも勿論ここで寝泊まりするのだ。

部屋……といってもろくな設備など無い。殺風景な暖色系白色の部屋に、ベッドと立体通信機があるのみ。

生活の場というよりも、ただの寝床と言った方が割に会っているだろう。




「……。」


ベッドに沈んだまま、コウは静かに目をつぶっている。


何も動かない。コウも、たったひとつ机に立っている寂しげな写真立ても、物音ひとつ立てることなく黙ったまま。


時が止まったようなその部屋で、コウは静かに、その醜く光る紅色の目を開いた。


「俺に……全部決めろってのか?」


ぽつりと、弱々しくしぼり出した音は、また沈黙の波に揉まれてどこかの虚に消えていく。

あぁ、この感じだ。この、ゆっくりと死んでいく感覚……。


こういう感覚を、今は抱いていたい気分だった。




……今、死んだのは何だ?


コウは表情を全く変えないまま、その双眸を閉じた。



もうじき、戦争が始まる。

次へ

ギュルシスアンテ File.1 s.1
やめる