安い賃貸アパートの狭い寝室で、俺達は夢を見ていた。

月明かりがレースのカーテン越しに揺らめく。

すやすやと寝息をたてる彼女を見ながら、俺はフッと小さく笑ってカーテンを静かに引いた。


月はいつもどおりの、ムカツクほどの歪んだ笑顔でこっちを眺めている。

でも、今日の月はそんな感情さえ忘れさせるほど輝いていて・・・いや、やっぱムカツク。


後ろを振り向いて、彼女の人形のような顔を見た。

月光に縁取られた俺の影に、彼女が寄りかかるような格好で眠っている。



「・・・。」



綺麗だ・・・。


何故、彼女はこんなに綺麗なんだろう。


結露した窓から光が弾けて放物線を描き、部屋に雨を降らせる。


あぁ、不思議な気分だ、すぐにおかしくなると思った。


俺は何かを好きになると、壊したくなる人間だ。

好きなグラスも、好きな本も、好きな人も、好きになればなるほど壊してしまう・・・。



彼女の事が本当に好きなのに、この寝顔の唇を今すぐにでも奪いたいのに

壊したくない、このまま、このままの姿でいてほしい。

俺のそばで、俺を好きだと言ってほしい。


守りたい。

今にも壊れそうなこの女性を、守りたいとさえ思うなんて・・・いや、逆にどうかしてるな。


もう一度フッと笑った。



満月のなんとかってのは、恐ろしい。

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オランダ人形 s.1
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