伝説を分かつ運命の君   ~外伝~  其の二


 「一伊!?本当に行かないの!?」

 かのこさんの声が聞こえた。かのことは一伊の母親だが、一伊は自分を私と呼ばないことと同じで、自分以外の人も「名前」で呼んでいた。
 「うん。」と小さく返事をする。

 「ごめん、今日ちょっと気分が悪いんだ。」

 はじめて、「嘘」をついた。
 かのこさんは、「仕事にいってくるわね」と言って、家を出て行く。
 家には一伊と、無職のお姉ちゃんである、栞ちゃんだけが残った。
 「無職とか言わないでくれる。それに私、無職じゃないし。ただ働いてないだけよ。……違う。働かせてくれるところがないだけ」

 ぎくっ
 栞ちゃんはたまに一伊の考えている事を言い当ててしまう。話しにくい相手だ、と常々感じている。
 
 「そ、それを無職って言うんじゃないの」
 「馬鹿。皆が誰も私の魅力に気づいてないだけ。」

 限りない、天井知らずの自信家だ。

 「そういえば一伊。最近この辺、通り魔が出るらしいよ。気をつけなね」

 通り魔…

 「うん、わかった。」
 「そ。じゃあ私、下でテレビ見てるから。」

 通り魔なんて、物騒な話今初めて聞いた。
 もしかしたら
 もしかしたら
 栞ちゃんが夢を見て、それを現実だと思い込んだのかも。
 けれど
 だとしたら
 栞ちゃんの「ユメ」は……

          
----事件がおきたと知ったのは、夕焼け小焼けのチャイムが聞こえてから2時間ほどたった夜のことだった。

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