漆黒のヘキサグラム・純白のペンタグラム外伝 人狼編9



 
漆黒のヘキサグラム・純白のペンタグラム外伝 ~人狼編~

 第九話「死神の烏」



◇7月17日

 紫乃は僕の眼前にペットショップのカタログを押し付けてくる。

「ちょ、近い! 近すぎるってば!」

「はぅ! 哀斜君っしっかり見て! ねぇ、この子もかぁいいでしょ!? ほらこの子のツノだって立派でかっこいいし!」

 どうしようもないこの状況に、打開策を求めてパラウドに目伏せする。

 しかし、パラウドはきひひひ……と笑って面白がるだけで僕を助けてはくれない。

「哀斜君、よそ見しないでっ!」

「……はい……」

 紫乃がさっきから熱心に指差しているのはカブトムシである。

 最初の頃は「へぇ~虫が平気なんだ、すごいね」で済んでいたのだが、最近に至ってはこの様だ。

 ここまでくるとすこし勘弁願いたいものなのだが。

「――で、薬師さん達も巻き込……ゴホン、誘って虫取りにいこうって紫乃は言いたいんだね?」

 紫乃は真剣な目つきでコクリと頷く。いや、そんなに全力で肯定しなくていいから。

 パラウドと明夏羽はパスとの事だったが、大丈夫なんだろうか。

「心配しなくていいよ、哀斜君っ! 虫かごも網も道具は一揃いあるから、準備万全だよっ」

「……なんでこういうときに限って用意周到なんだろうな、人って……」

「人じゃなくて、狼だからじゃないでしょうか……」

 明夏羽も逃さず茶々をいれてくる。

「そんな自信ありげに言われても困るよ。それに第一……皆が皆、紫乃みたいに虫が得意な訳じゃないから、薬師さんに断られ
るかもしれないし」

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