漆黒のヘキサグラム・純白のペンタグラム外伝 人狼編5



漆黒のヘキサグラム・純白のペンタグラム外伝 ~人狼編~

 第五話「望月の詠」



◇7月7日

 日は既に沈みきって、村は夜の静寂に包まれていた。

 背中を向けている田園風景の向こうから祭囃子が聞こえてくる。

 この枕戸村は今夜、年に一度の『御鶏祭(オオトリオミオコシ)』という祭りを迎えている。

 枕戸神社で祭られている土地神様、オオトリさまを祭り上げるお祭り。

 けど、僕は賑やかさを増す神社とは逆の方向へ走っていた。

 自分の動悸があがっていくのが分かる。

 でも走るのをやめる気にはならなかった。

 大切な友達が遠くに行ってしまっていて、途方に暮れてしまっているのではないか。もう帰ってこないのではないか。

 はたまた、あの笑顔をもう一度拝める日がこないのかもしれない。

 悪い想像ばかりが酸素を切らした頭に渦巻く。

 その恐怖に追い立てられるように、僕は走り続けた。

 まっ平らで、どこまでもつづくようなこの畦道を。

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