サティスファクトリ (1話読み切り)


明け方の天球が、水平線の向こうで柔らかに光るのが見えてきた。海が太陽の光を複雑に乱反射して、幾重にも重なり合い、何とも言えない青みがかった赤を透かしている、実に神秘的だ。

見とれていると、まるで間接照明のように柔らかだった暁光が一段指の間に強さを増して、夜の闇を振り払うように秋の寒空を白く染めて行くのが見て取れた。

空は昼間の青を忘れたように白んで、まるでモノクロの世界に亀裂が入ったようだった。




―――――きっと、お空はおっきなキャンバスで、毎日毎朝、神様が色を塗りなおしてるんだね。




そんな話をしたのは、いつの頃だったろうか……確か小五の野外活動の時だったか。

あの時は、妙な高揚感に見舞われて一睡もできなかった。とても退屈していたのを覚えている。

その朝に見た日の出は、何故だか分からないがとても綺麗に見えて、感動した覚えがある。今の感覚はあの日のそれと似ていた。



潮風と波に削られたコンクリートブロック。何もない国道沿い。

何の持ち合わせもない学生二人ぼっち。

ただ、少しの幸せとちっぽけな希望、そして大きな不安と疲労感。

とても重い荷物だった。

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