トラに肩を貸して、一段ずつゆっくりと登っていきます。
入り口は、見回りが入ってきたときのままなのか開きっぱなしになっていました。
そーっと顔を出し、辺りに人がいないのを確かめると、素早く、だけど静かに入り口から出て床を戻します。
「とりあえず外に出ようか。草陰なら簡単には見つからないはずだし」
「そうだな、そうしよう」
2人は、少年Sが来た道を戻ります。
監視員の動きを見ようと、少年Sが窓の外を見ると…
「よ、夜が明けてる…もう朝だよ!」
少年Sが家から抜け出してかなりの時間が経っていました。
朝を知らせる鶏の鳴き声が響きます。
この鳴き声が聞こえたら、国民は起きなければいけません。規則で決められているからです。
「とりあえず外に…」
そう言って窓を潜り抜けようとすると同時に、少し離れたところで騒ぎ声が聞こえます。
「バレたか…」
「急ごう!」
先にトラを逃し、続いて少年Sが潜ろうと足をかけると後ろから何人か、見回りが駆けてきました。
「居たぞ!!」
「嘘、来るの早くない?」
『尺の都合です』
「えまって誰の声?」
「S!早く来い!」
外からトラに呼ばれてさっさと潜り抜ける少年S。
着地すると同時に、トラが隠れている草陰に潜り込みます。
「さてどうしたもんかな」
騒ぎはだんだん大きくなっていました。
2人を探す人たちの声は大きくなっていました。
「これ、見つかったらどうなるかな…?」
「まぁ、間違いなく殺されるだろうなぁ…規則破ってるしな」
「そうだよね…」
ぎゅっと膝を抱えて俯く少年S。
その体は少し震えていました。
それを見たトラは、少年Sの頭を優しく撫でます。
「大丈夫だって。俺たち2人なら、きっとどうにかなるよ」
「トラ…」
顔を上げた少年Sに、トラは優しく微笑みかけます。
「さてさて、今外はどうなってるかな…」
と、草陰から外を覗き見ようとすると…

シュッ

トラの鼻の先をなにかがかすめました。
とても綺麗に磨き上げられた剣でした。
顔を上げるとそこには兵士が立っていました。
「よお、友情ごっこは終わりか?」
すごく体格のいい兵士です。
少年Sは何度か見かけたことがありますが、この男は兵隊の中でもそこそこ偉い人、副隊長みたいでした。
「他の奴らにはわからなかったみたいだがな、俺にはすーぐわかったぜえ。血の臭いがよぉ、ぷんぷん臭ってきてっからなぁ!」
どうやら2人がいるのをわかってて、ずっとすぐそばに居たようです。
「さあどうする!もう逃げられねぇぜ。すぐ他の兵士たちがここに集まるからな!…規則を破った奴がどうなるかは、言わなくてもわかるだろ?」
ニヤニヤと、気持ちの悪い笑顔をしながら副隊長は言います。
トラはただその顔をキッ、と睨むことしかできませんでした。
その横では少年Sが今にも泣きそうな顔で震えています。
そうこうしてるうちに、一人の兵士がやってきました。
「見つけられたのですね」
茶色い毛をした犬獣人の兵士でした。
副隊長と比べると、とても細身ではありますが痩せ型ではなく、しっかりと鍛えられているのが分かります。
「おう新入りか。他の奴らはどうした」
「他の方は皆城壁の外を探しに行かれましたよ」
「そうかそうか…」
役立たずどもが…と言いながら副隊長は2人に向き直ります。
「さぁて、こいつらどうしてやろうかな?どうせ処刑されるんなら、ここでヤっちまってもいいよなあ!」
地面に突き刺さったままの剣を抜き、剣先を2人に向けます。
「そうですね」
「だよなぁ!なら遠慮なく…」
「でも…」
新入り兵士がゆっくりと3人に近づいていきます。
その右手は腰に納められた剣の柄を握っていました。
新入り兵士が副隊長の後ろに立ちます。
「ボクにも1人、やらせてもらえませんか?」
青い瞳が真っ直ぐと副隊長を見つめていました。
副隊長は少し考えて、
「そうだな、独り占めはよくねぇよな!いいだろう、好きな方を選べ。俺は残った方でいいからよ」
「ありがとうございます」
そういって、新入り兵士はトラを見つめました。
ここまでか…、と諦め、トラは覚悟を決め、頭を下げます。
柄を掴む手に、力が入るのが分かります。
そのまま、しばらく新米兵士はトラを見たまま黙っています。
その様子を見ていた副隊長は痺れを切らし
「おい!早くヤれよ!ヤらねぇなら俺が2人ともや



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続・少年とネコ s.1
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