◆第五章:尽くしたいと、願ふ――渡月橋の戦い



◇1582年3月3日



 ボロ小屋。

 そう。

 そうか。

 ここはあばら小屋。

 私の住んでる、裏に林のある、まさしく“あばら家”だ。

 私は布団にすっぽりと入っていた。

 ぬくぬくとした体温を感じるが、外は夜の帳がおりて如何にも寒々しかった。

 ――眠れない。

 こんな夜中に、眠りから醒めてしまうなんて。

 きっと私はまだ怖いんだ。

 厄神の計画、そう、“京都の都に攻め入る”ということが。

「――起こしちまったか?」

 隣の布団。

 厄神の寝る位置から、彼の声が聞こえる。

 彼も眠れないらしかった。



「いい月よね。せっかくだから、梟と一緒にお茶でも飲む?」

 私にできる精一杯の軽口で、厄神に提案した。

次へ

【小説】厄之神:第五章「尽くしたいと、願ふ」【著:ジャトゥー】 s.1
やめる