◆第四章:出陣の刻
◇1581年9月8日
気がつくと、もう夜にもなっていた。
寒い夜だった。
翳む。
螢の声も、翳んで聞こえる。
手に感覚がある。
冷たい。
冷えてる。
まだ私は痛みの狭間に、閉ざされたまま。
その隙から冷たく、私の手を握る、何か。
「……紫乃……」
厄神、なの?
厄神の手なのだろうか。
私を握っているのは。
とても――優しい海。
あぁ、これが、母親というものか。
私の母、吉河 綾乃は、こんな風に私を包み込んでくれたのだろうか。
視界が一気に白みがかった靄に、抱かれる。
光の先に、わが子の産声を、聞いた気が、した……。
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【小説】厄之神:第四章「出陣の刻」【著:ジャトゥー】 s.1
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